スタンダード《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》について
2018/01/14
ジャズのスタンダードといえば、おそらく多くのジャズ好きが思い浮かべる10曲のうちに必ずといって良いほどランクインするであろう名曲が《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》でしょう。
まあベタな曲ではあるのですが、でもいい曲よ。
でも多分、聴くだけの人と、演奏する人とでは、この曲の捉え方、ちょっとだけ違っているかもしれない(同じかもしれないけど)。
一言で言えば、カンタンそうで、そこはかとなく難しいのです。
聴いているぶんには、流麗で美しいメロディがメランコリックに流れているように聴こえるかもしれないけど(実際、そうなんだけど)、演るほうにとっては(特にジャズ演奏歴が短い人にとっては)、この美しい流れに浸ってばかりいると、良いアドリブがとれないかもしれない。
微妙な位置で(具体的に言うと偶数ではなく奇数小節のタイミングで)転調されるところがあるので、身体に染み込んだ惰性で臨むと、一瞬ヒヤッとすることが無きにしも非ず。
私も、学生の頃は、一瞬、「うっ!」とつまりそうになること、よくありました。
で、この「うっ!」とつまる感覚は、モンクの曲をやっているときの感触によく似ている。
演奏しているとよく分かるんだけど、コードチェンジといい、旋律のタイミング(あるいはリズム)のズラしかたといい、モンクの曲は、ジャズマンに染み付いた「ジャズ的惰性」に対して「覚醒」を促すような暗黙のメッセージが込められているような気がしてならない。
その点、ジェローム・カーンの《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》は、まだまだ長閑なものでありますが。
ちなみに私の場合は、コールマン・ホーキンスの《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》に合わせてベースの練習することが多いですね。
アドリブラインといえば、『カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ Vol.1』の《プリンス・アルバート》も、フレーズの宝庫です。
タイトルやテーマのメロディは違うけれども、《プリンス・アルバート》は、《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》のコード進行を下敷きにしたナンバーです。
作曲者、というか「メロディ改変者」は、ケニー・ドーハム。
ドーハムの朗々としたトランペットのフレーズと音色は西日が差し込む下町のアパートのような切なさもチラリと垣間見ることが出来るんですよね。
その中から、グッときたフレーズを数小節、盗む!
これがまた、良い練習になるのですよ。
昔から、多くのジャズマンは、このようにして先輩が奏でた「粋なフレーズ」をモノにすることによって、ジャズは受け継がれてきたのでしょうね。
記:2015/12/21