テキサスのブルース親父、アーネット・コブ
text:高良俊礼(Sounds Pal)
ブルース・フィーリング
ジャズという音楽の醍醐味のひとつに「ブルース・フィーリング」というものがある。
読んで字の如く「ブルースな感じ」である。
ジャズのルーツにはブルースやスピリチュアル(黒人霊歌)があって、それらはジャズがジャズとして誕生するずっと以前からあって、音符としてはメジャースケールに第3音、第5音、第7音を半音下げ た音を加えたものであって・・・と理論的にまとめてみても--あるミュージシャンは、クラブでのギグが終わった後、おもむろにタバコを吹かし、テキーラをあおってこう言った「・・・どうしようもないフィーリングさ、ステージでエキサイティングなプレイをしている時だって、最高にハイでハッピーな気分になったって、心の中はどこか憂鬱で晴れないのさ。こすってもこすっても落ちない垢のようさね、ブルースは。もっとも俺がそいつにイカレて出すサウンドを、聴いてるヤツらは”最高だ!何てクレイジーなんだ!”って喜んでやがるがね・・・」と、ハードボイルドにつらつら書いてみても、そのフィーリングをムンムンに持っているアーティストの演奏の一音にすら及ばない。
ジャズやブルースに関する知識なんかなくても、スピーカーの前で自然と
「イエ~イ」
「アァ~ッツ!!」
と、自分の口から漏れてしまえば、その声を発せさせる何らかの不思議な力が”ブルース・フィーリング”だと、私は思う。
コブ漬け
ソイツを悟らせてくれたのがアーネット・コブ、テキサス生まれのタフなテナー・マンだ。
この人が吹けば、どんな曲でもブルースになってしまう。
ズ太いテナーの音が芳醇な色気とドス黒い汁気を絡ませながら沸々と煮立ってゆく、正に血肉からしてそうなってるとしか思えない、どうしようもないブルースだ。
タフで豪快、テクニックとか細かい事はどうでもよくて、ひたすら気合いでブロウして、その音色の何ともいえないコクと独特の”後ノリ”で、頭よりもハートと腰を刺激する、ブロウ!ブロウ!グロウル!ブロウ!
くーーーーーっ!!
となるその快感にハマッてしまったら、もう他の音楽にちょっと物足りなさすら感じてしまうのだ。
この状態を“コブ漬け”と呼ぶ。
チタリン・シャウト
元々ブルース、それも“ヒューストン・ジャンプ”という独自のリズム・アンド・ブルースのビッグバンドが隆盛を極めていたテキサスで鍛えられたコブ、ニューヨークに出てきてモダンなジャズ・バンドに入ってからもブルースのルーツを隠すことなくワイルドにブロウして、知る人ぞ知る人気者になった。
1918年生まれで40年代にデビューしているから、キャリアはべらぼうに長い。
その中でも特に70年代に入ってから、ソウル/ファンクなサウンドをバックに、持ち前のタフなブロウを炸裂させているアルバム『チタリン・シャウト』が私は特に好きだ。
ジャズ・ファンクといえば、ジャズの人らにとっては「新しいサウンド」であり、70年代はモダンで鳴らした名手らが、悪戦苦闘してどうにかこのサウンドをモノにしようとしているアルバム多いが、コブにとってみれば8ビートや16ビートの上で、いつものブルースなフレーズをブロウすればいいだけのことであり、それがまたドンピシャでハマっているからカッコイイ。
重厚なホーン・セクションにエレキギター、タイトでファットなリズムの上で気合いのブロウをかます男・・・いや“漢”のテナー。
「イエ~イ」
「アァ~ッツ!!」
スピーカーの前で、何度感極まったことだろう。
あぁたまらんね、たまらんちゃこれ・・・。
記:2016/03/19
text by
●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル)