激安ベース購入記~なんと、一万円台のベースを買ってみた。
2018/01/14
新しいベースを買った。
プレシジョンベースだ。
プレシジョンベースを買うのは、たしか、これで4台目だ。
以前、所有していたのは、フェンダーのオールド、57年のものだった。
タバコ・サンバーストにアルミニウム製ピックガード。
指板はメイプル。
これ以上無いというぐらい、ボロボロなボディは、とても良い味を出していた。
出てくる音は、もう、えげつないぐらいのバキバキ音。アタックの強い凶暴な音だった。
オールド・ショップで「これください」と言ったときに、店員がニヤリと笑って「この暴れ馬を乗りこなすのは、とても大変ですよ」と言っていたことを思い出す。
このプレシジョンは、ウッドベースを買う際に下取りとして出してしまったので、結局、店員の言ったとおり、私の実力では乗りこなせなかったのだと思う。
しばらくは、オールドのジャズベースのフレットを抜いたエレキベースと、ウッドベースという二台のベースだけが家にある状態が続いた。
フレットレスベースの音は申し分ないし、これ一本で椎名林檎やビートルズのようなポップチューンから、ブルース、ジャズ、そしてオマヌケな即興演奏までをこなせていたので、まったく不自由は感じていなかったし、どちらかというと私の生活の中心はウッドベースを中心に回っていたので、エレキベースをもう一本買うことなど、まったく頭の中にはなかった。
しかし、年末になって突然、フレット付きのベースが猛烈に欲しくなったのだ。
理由はいくつかあるが、一番のキッカケは、このページの掲示板の書き込みだ。
書き込んだベーシストの方、“音程を気にせずに思いっきりフレッテッドを弾くのもまた良し”といった趣旨のことを書かれていたが、これを読んだときに、なるほど!と思った。
というのも、私はよく会社帰りに演奏の出来る飲み屋に行くのだが、そこに置いてあるベースを思い出したからだ。
店のマスターが昔組んでいたソウルバンドのベーシストが店に置いたままにしているベースだ。
私は酔いの勢いにまかせて、様々な曲を店にあるベースで弾いているが、そういえば、このベースを弾いているときは、音程のことなど考えたことなど全くないことに気がついた。
音程やポジションのことなどまったく考えずに、自由に勢いにまかせて弾くことは気持ちが良い。
客や店の人が一緒にやりましょうよと持ちかけてきた新曲も、音程と指のフォームを気にせず、ひたすら曲の進行を追いかけるのと、ベースラインを考えながら弾くことだけに専念が出来る。
だったら、自分用のフレッテッド・ベースを買っちゃえば話が早いじゃないか、ということになったのだ。
思いっきり弾くためのベース。
ぶっ叩いても、ステージに落としても、乱暴な弾き方をしても、換気の悪い店に置きっぱなしにしても、まったく気にしないですむベース。
そんなベースを一台持っていても悪くない。
ということは安いベースが良い。それも、笑っちゃうぐらい安いベースが。
音の良し悪しは二の次。まずは安さ、そして丈夫さだ。
手元にあった『BANDやろうぜ!』という雑誌の楽器屋の広告を見ると、あるわ、あるわ、1万円台の入門者向けのプレシジョンやら、ジャズベースが。
中には、ケースやチューナーなどの付属品を抜けば、本体価格が9800円のベースなんかもあった。
よーし、この広告に載っているような、思いっきり安いベースを買って、自分好みにカスタマイズしよう!と考えた。
これぐらい安ければ、パーツの交換や改造、さらに必要によってはボディに穴を開けることにも罪悪感を感じずに済む。
そして、カスタマイズするならば、互換性の利くタイプのベースが良い。つまり、ジャズベースかプレシジョン・タイプのベース。
なぜなら、自宅のガラクタ箱には、フェンダー仕様のベース用のパーツ類がたくさんストックされているから。
ジャズベースかプレシジョン・タイプのどちらがいいかと迷ったが、昨年手放してしまったプレシジョンのことをフと思い出し、プレシジョン・タイプにしようと思った。
やっぱり、時には、あのような乱暴で荒い音色、しかし、アンサンブルに溶け込むと、太くまろやかなテイストに変化する音色も恋しくなるのだ。
早速、御茶ノ水に行った。
ほぼ、すべての楽器屋を廻った。
ジャズベース・タイプの安いベースはたくさん出ていたが、意外とプレシジョンの安いモデルは店頭に並んでいなかった。
これは、無理して買う必要ないかな、と思った矢先、最後に覗いた楽器屋の店頭で、1万4800円の赤と黄色のプレシジョンが投げ売りされていた。
早速「店頭に置いてある滅茶苦茶安いプレシジョンを試奏させてください」と店員に頼んだ。
驚いたことに、試奏してみると、思ったほど悪くないのだ。
音の粒立ちが非常にハッキリしていて、トーンをゼロに絞っても、音に明瞭な輪郭と腰がある点は、プレシジョンというよりはジャズベースに近いものを感じた。
もっとも、私が弾くベースの音は、みんなジャズベースのような音になっちゃうんだけど…。
低音の腰とパンチが若干足りないような気もしたが、値段を考えると、そこまでの贅沢は言えまい。
なにせ、私がメインで使っているジャズベースは、このプレシジョンが軽く60台は買えてしまう値段なんだから。
同じ土俵で比較してはいけないし、第一、1万4800円のベースが、私のオールドを上回る音だったら、大枚はたいてオールドを買った私はいったいなんなのよ?になってしまう。
それに、フェンダー・ジャパンの4万円や7万円で出ているタイプのように中途半端に廉価なベースの音と比べても、なんら遜色がないのだ。
同じレベルの音色だったら、安いほうを買ったほうが良い。
ネックも70年代タイプの肉厚なネックというよりは、50年代後半タイプのように扁平なタイプに近く、非常に握りやすい。
そして、なにより、ボディのカラーが気に入った。鮮やかな赤と、綺麗な黄色。
さんざん、迷った挙句、同行した息子に「どっちの色がいい?」と尋ねたら、「黄色!」という声が返ってきたので、黄色のタイプを購入した。
赤いプレシジョンベースはよく見かけるが、黄色いプレシジョンはなかなか見かけない。
しかも、この黄色は、量産型のドラえもんと同じ色で、真っ黄色というよりは、山吹色がかった黄色なのだ。
早速、家に持ち帰ってサウンドチェックをした。
値段のわりには満足度の行く音ではあったが、もう少し手を加えれば、さらに絞まりのある音色と、私好みの弾き心地ちに変えられると思った。
まず、ブリッジをバダス2に付け替えて、弦のテンションを高めにした。
バダスにしたことによって、さらに音に絞まりが出てきた。
次に、ヘッドに止めてある、1弦と2弦のテンションを稼ぐためのテンションピンの高さが気になったので(高いとテンションが緩くなる)、低めのテンションピンに付け替えて、1弦と2弦のテンションをさらに稼いだ。
次の作業は、ブリッジのオクターブ調整だ。
私の場合、過去に購入したベースのほとんどがフレットレスだったせいか、オクターブ・チューニングには、いつも、かなりの時間を費やしていたが、今回はフレッテッド。
それほど時間をかけずにバッチリとチューニングメーターがジャストに決まったので、フレット付きの有難さを実感出来た。
クロマチカルなフレーズを、1フレットずつ丁寧に弾きながら、弦のビビリを確認し、弦高を調整した。
私の場合、弦高調整は、いったんベタベタになるまで低く下げてから、少しずつ高く調整してゆく方法を取っている。
ハイポジションのビビリが気になったので、少し高めの弦高にセッティングした。
弦によって、音量のバラつきがあったので、ピックアップの角度を少しずつ修正した。
そして、実際にCDに合わせて曲を弾きながら、楽器のバランスの問題に気がつくところがあったら、その都度演奏を中断して少しずつ微調整していった。
今回、調整用にかけたアルバムは、椎名林檎の『無罪モラトリアム』。
このアルバムのベーシストは、亀田誠司で、彼は一貫して林檎のバックではジャズベースを弾いているが、私には彼のベースの音色が、とてもプレシジョンっぽく聞こえてしまうのだ。
おそらく、太い音色と、時おり繰り出すエグいフレーズが、プレシジョン的に感じてしまうからなのだと思う。
だから、『無罪モラトリアム』というアルバムは、プレシジョンで弾くには最適な曲が入っていると個人的には思っている。
そして、このアルバムの1曲目から6曲目までの選曲のバランスも、ベース的には丁度良い。
ちょっとジャマーソンばりにウネるベースラインも出てくる曲もあるし、パンクっぽくひたすら速いルート弾きの曲もある。8ビートの王道的なベースラインの曲もあれば、しんみりとしたバラード調の曲もある。また、曲のサビの部分が4ビートの曲もある。
だから1曲目から6曲目までを通しで弾けば、ベース的には色々なラインを試すことが出来るので、椎名林檎の『無罪モラトリアム』というアルバムは、曲も優れているが、ベース的にも非常にバランスのとれたアルバムだと私は思っている。
林檎の曲に合わせて、大方のバランスの調整が終了したので、次は4ビートも弾いてみようと思い、CD棚のジャズコーナーを物色した。
私がベースを購入した際、必ず最初に弾く曲はチャーリー・パーカーの《コンファメーション》と決めている。
ヴァーヴの『ナウズ・ザ・タイム』に収録されている曲だ。
この曲のベースラインを弾きたくて、ベースを始めたようなものだし、なにしろ短い演奏時間の中に、ジャズの持つおいしいエッセンスが凝縮されていると思うし、曲が典型的なツー・ファイヴ・モーションの進行ゆえ、ジャズのベースラインの常套句が満載された曲なのだ。
よって、今回も《コンファメーション》に合わせてベースを弾こうと思ったが、いつまでも《コンファメーション》だけじゃつまらないなと思い、デクスター・ゴードンの『アワー・マン・イン・パリ』を取り出して一曲目の《スクラップル・フロム・ジ・アップル》に合わせてベースを弾いた。
結局、チャーリー・パーカーの曲だ……。
このアルバムの良いところは、ケニー・クラークのけたたましいまでのシンバル・ワークが雰囲気満点な上に、ピエール・ミッシェロの職人的なベースワークが素晴らしいこと。
また、ピアノがバド・パウエルなので、演奏に厚みと存在感が増していること。
鑑賞の面では、この素晴らしい面子の組み合わせと、彼らの織り成すサウンドに酔えればそれで良いのだが、このアルバムに合わせてベースを弾くには注意しなければいけない課題があって、私はこのために長年、デクスター・ゴードンのアルバムに合わせてベースを弾けなかった。
それはなにかというと、テナーのレイドバック奏法。
デクスターは、わざとリズムにちょっと遅れるぐらいのタイミングで、これ以上タメると明らかに“もたって”しまうぐらいのギリギリのタイミングの瀬戸際でサックスを吹く。
これに釣られてベースを弾くと、必ずリズムが取り残されてしまうのだ。
デックスのサックスに合わせ過ぎずにリズム隊は淡々とリズムを刻まなければならない。
これに注意しながらベースを弾くのは、なかなかに神経を使う作業なのだ。
だから、敢えて挑んでみた。
危なっかしいながらも、なんとかこなせたと思う。
そして、ついでに《柳よ泣いておくれ》や《チュニジアの夜》など、このアルバムを名盤たらしめている名演に合わせてベースを弾いてみて、ゴキゲンな気分になっているうちに、夜は更けていた。
音色も弾きやすさも、ほぼ、自分好みにチューニング出来たんじゃないかと思う。
もしかしたら、“自分好みにカスタマイズする楽しさ”を味わうために新しいベースを買ったのかもしれないなとも思った。
翌日、椎名林檎や宇多田ヒカルの曲をカバーしているバンドの練習があったので、早速この黄色いプレシジョンベースを持って行った。
何の違和感も感じずに、このプレシジョンのサウンドは、演奏に溶け込んでいた、と思う。
しばらくは、このバンドのメインベースにしてみようかなと思っている。
その後、飲み屋に行き、カラオケに合わせて何曲かを弾いてみた。
例によって、ピッチのことなどまったく気にせずに、自分が好きなように、思う存分弾くことが出来た。
やっぱり気持ちよく酔っている時は、自分の手許をまったく気にせずに弾けるほうが良い。
このことを一つ取っても、買って良かったと思った。
あとは、ベースの命ともいえる、ネックの強度がどれぐらいのものかが唯一の気がかりだ。
今のところは問題ないが、しばらく使用してもこのコンディションを保てるかどうか。酷使してもトラブルを起こさずに、きちんと耐えうるだけの強度を持っているのかどうか。
これが問題無ければ、本当にお得な買い物だったと言える。
ちなみに、このプレシジョンのメーカー名は、Vintage。
ヴィンテージな音を廉価で、というコンセプトなのかどうかは分からないが、インチキ臭くてたまりません(笑)。
また、ネックジョイント部分のプレートに“メイド・イン・チャイナ”というシールとともに貼られていたシリアルナンバーは、43648。
って、こんなこと書いてもありがたがる人は誰もいないだろうけど(笑)。
記:2002/12/31
追記
さらに、このベースのピックアップをセイモア・ダンカンのベースラインに交換してみた。
このピックアップの定価が1万6千円だから、パーツのほうが本体の値段を上回っているという(笑)。
もしかして、今回の激安ベース購入の大きな理由は、“いろいろとベースを改造して遊ぶこと”を楽しむということが大きいかったのかもしれない。
記:2002/01/19(from「ベース馬鹿見参!」)