ブルー・トレイン/ジョン・コルトレーン
2022/01/26
重厚、迫力、肉厚、ときにはリラックス
言わずと知れた大名盤。
ジョン・コルトレーンがブルーノートにのこした唯一のリーダー作。
重厚かつ充実、大満足な名演のオンパレードで、ブルーノートのアルバムの中でも「大傑作」の部類に位置する内容だと思う。
演奏全体がイキイキしている。骨太で力強い。重厚で迫力のある演奏ばかりだ。
このパワフルな演奏を聴くと元気になれる。
ガッシリとした、ブルーノートならではの迫力あるサウンドも嬉しい。
また、ソロの箇所では、バックにホーンのリフを入れたり、リズムを倍テンポにして演奏を盛り上げたりと、痒いところまで手が届いているアレンジの心配りもニクい。
コルトレーンのフィラデルフィア時代の仲間、リー・モーガンとフィリー・ジョー・ジョーンズ、それに当時のマイルス・グループでの同僚、ポール・チェンバースといった、気心の知れたサイドメンの頑張りっぷりも快い。
コルトレーンのサックスは、溌剌としている。全体的には重厚な演奏だが、発散されるオーラはあくまで「陽」だ。
曲も良い曲ばかりだ。
3管で迫力あるテーマが奏でられる《ブルー・トレイン》。
これぞ、ジャズだ!と叫びたくなるほどの冒頭の5音は圧巻。
《モーメンツ・ノーティス》もカッコいいメロディの曲だ。
コードが激変する曲でもあり、難曲《ジャイアント・ステップス》に到達する直前といった趣きの曲だが、コード・チェンジの複雑さ(頻繁さ)とは裏腹に、魅惑的な進行でもあり、この複雑なレールの上を疾走するコルトレーン以下、すべてのサイドマンの奮闘っぷりも快い。
パワフルな《ロコモーション》に圧倒され、バラードの《アイム・オールド・ファッションド》で一服。
コルトレーンのバラードにはアタリ・ハズレが大きいと思っている私でも、この演奏には納得。男だ。
そして、最後の《レイジー・バード》。
なんて素敵なテーマなんだろう。テーマをワンホーンで、余力たっぷりの余裕を持った様で奏でるモーガンの粋なこと、粋なこと。
そう、モーガンはいつだって粋なのだ。
当時のモーガンは、弱冠19歳の若さ。
思いきりの良いラッパに、惚れ惚れとしてしまう。
サックスとラッパ。楽器の特性の違いなのだろうか。
サックスがパラパラとたくさんの音をバラまいて吹いたとしても、後続のラッパの「パラッ!」の一音で、これまでのサックスの「頑張り」が無効になって掻き消されてしまうことがある。
トランペットのアタックの強い一音のインパクトには、やはりかなわないのだろうか。
それを象徴するかのような演奏が、1曲目の《ブルー・トレイン》。
当時、シーツ・オブ・サウンドに磨きのかかってきたコルトレーン繰り出す、圧倒的な音数のアドリブ。すごい気迫で時間を埋め尽くしてゆくコルトレーンのテナーには、ただただ圧倒される。
しかし、ソロ・オーダーがコルトレーンからモーガンに代わり、モーガンが最初の一音を奏でると……。
♪パラ・パラ・パラ・パラ……
同じ音を数度、余裕を持って奏でるだけで、今までのコルトレーンの「熱気」が、あっという間にクール・ダウンしてゆく。
この、たった数音で、世界が瞬く間にコルトレーン色から、モーガン色に一変する様は、痛快だ。
今までの、汗水飛び散る暑苦しい(?)コルトレーンの世界が、リー・モーガンの登場によって、あっという間にモーガン一色の世界に変貌してゆく様はとても興味深い。
「そんなに熱くなるなよ、先輩。」とでも言いたげな、余裕をかましたモーガンのラッパは、憎たらしくて、トッポくて、こましゃくれていて、そして、悔しいけれどもカッコ良い。
この『ブルー・トレイン』というアルバム、コルトレーンのリーダー作なのだが、私にとっては、粋なリー・モーガンを聴くためのアルバムでもある。
なんてことを言うと、熱心なコルトレーン信者に怒られてしまうか。
記:2002/03/07
album data
BLUE TRAIN (Blue Note)
- John Coltrane
1.Blue Train
2.Moments Notice
3.Locomotion
4.I'm Old Fashioned
5.Lazy Bird
John Coltrane(ts)
Lee Morgan(tp)
Curtis Fuller(tb)
Kenny Drew(p)
Paul Chambers(b)
"Philly" Joe Jones(ds)
1957/09/15
追記
2013年の10月に発売されたバージョンには、世界初CD化のボーナス・トラック、《ブルー・トレイン》の別テイク1が収録されている。