ブルースの真実/オリヴァー・ネルソン

   

ドルフィー参加のアルバム

エリック・ドルフィーが大好きで、ドルフィーのリーダーアルバムに飽き足らず、学生時代は、ドルフィーがサイドマンとして参加したアルバムを熱心に集めていたものだ。

その過程で出会ったのが、この一枚『ブルースの真実』だった。

錚々たるメンツ

パーソネルを見ると、ドルフィー以外にも、トランペットがフレディ・ハバード、ピアノはエヴァンスではないか。
ベースは大好きなポール・チェンバースだし、ドラムはロイ・ヘインズが叩いている。

バリトンサックスのジョージ・バーロウという人は知らなかったけれども、彼以外のサイドマンは、なんとまぁ錚々たるメンツ揃いではないかと興奮してレジに走ったものだ。

しかし、実際に聴いてみると、若くてケツの青かった当時の私には、その濃厚かつ幽玄な世界観がいまひとつピンとこなかった。

ストールン・モーメンツ

エキサイティングな演奏ばかりに興奮を覚えていた当時の私は、どうもこのアルバムが醸し出す「まったり」「しっとり」感が、『ブルースの真実』の第一印象だったため、かなり肩透かしを食らった気分だった。

たとえば、フィル・ウッズとヨーロピアン・リズムマシーンの《ストールン・モーメンツ》のエキサイティングな演奏に比べると、こちらのオリヴァー・ネルソン作曲のオリジナルヴァージョンの演奏は、なんというかまったりし過ぎているんだよね。

>>アライヴ・アンド・ウェル・イン・パリ/フィル・ウッズ&ヨーロピアン・リズム・マシーン

最初にフィル・ウッズの演奏を聴いてしまっているものだから、どうしても比較をしてしまうわけで、こちらの演奏は、なんだか躍動感に乏しいなと思ったものだ。

ロイ・ヘインズのドラミング

しかし、よくよく考えてみると、このアルバムに対する「まったり」な印象は、冒頭の《ストールン・モーメンツ》の印象があまりにも強すぎたからなのではないかと思っている。

だって、他のナンバーは、必ずしも「まったり」ではないからだ。

たとえば、2曲目の《ホー・ダウン》なんて、かなり躍動的だ。

ドルフィーのアルトサックスのソロは「いつもの」元気なドルフィーだし、バックのドラムがロイ・ヘインズだからということも手伝ってか、一瞬《アウト・ゼア》を聴いている時のような錯覚を覚えるほどだ。

実際、ドルフィーは似たようなフレーズを繰り出しているし、その際にアクセントをつけるヘインズのドラミングも《アウト・ゼア》を彷彿とさせるものがある。

>>アウト・ゼア/エリック・ドルフィー

そうそう、スピード感とメリハリのあるロイ・ヘインズのドラムが、なかなかなのですよ。

独特なアクセントの置き方は、まさに彼ならではのドラミングで、ドラムだけでも聴けてしまう素晴らしい演奏なのだ。

テーマは、けっこうマヌケなので一瞬引いてしまうかもしれないけれども、アドリブ・パートに突入すれば、そんな思いも吹っ飛んでしまうことだろう。

これは《カスケイズ》や《ブッチ・アンド・ブッチ》、《ティーニーズ・ブルース》にも言えることだし、ミドルテンポのブルース《ヤーニン》は、チェンバースがゴキゲンな時に繰り出すベースラインが随所に出現するので、チェンバース好きにとっては思わずニヤリとしてしまう演奏だ。

結局、テーマのアレンジが凝っていようとも、アドリブパートに突入してしまえば、それぞれのジャズマンの独壇場となっているのだ。

テーマのメロディやアレンジはクセのあるナンバーが多くを占めるので、演奏の入口の部分で多少引いてしまったとしても、各人のアドリブパートに突入さえしてしまえば、『ブルースの真実』に収録されている曲は、オーソドックスな4ビートのジャズだと言っても過言ではない。

アレンジャーとしてのネルソン

正直、このアルバムのオリヴァー・ネルソンのアレンジが好きか嫌いかと問われれば、今となっても、あまり好きな部類には入らないかもしれない。

しかし、かなり緻密に練り上げられた知的なアレンジだということは分かるし、ビッグバンド風のアレンジを少人数で実現させようという意気込みは伝わってくる。

そして、参加人数以上のサウンドの厚みを獲得していることは言うまでもなく、このようなことからも、オリヴァー・ネルソンはきわめて優秀なアレンジャーであることは十二分に理解することが出来るだろう。

バックで旋律を彩る管楽器の動き方など、編曲を勉強している人にとっては格好の教科書にもなるのではないだろうか。

記:2016/05/08

album data

THE BLUES AND THE ABSTRACT TRUTH (Impulse)
- Oliver Nelson

1.Stolen Moments
2.Hoe-Down
3.Cascades
4.Yearnin'
5.Butch and Butch
6.Teenie's Blues

Oliver Nelson (as,ts)
Freddie Hubbard (tp)
Eric Dolphy (fl,as)
George Barrow (bs)
Bill Evans (p)
Paul Chambers (b)
Roy Haynes (ds)

1961/02/23

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