ブック・クックス/ブッカー・アーヴィン

   


The Book Cooks

泥臭くて真っ黒だ

ブック・クックス。

まず、その語感が良い。

促音の「ッ」が二回続き、韻を踏んでいるようだが、この「ッ」の詰まり具合、そして「ク」の発音も、きっと「く」とベタに発音をするんじゃなくて、「ッ(ヵ)」という感じで消え入りそうに発音するのだろう。この「ッ(ヵ)」の詰まった語感がなんともいえずに、どうしようもなく粘っこくてファンクだ。

いや、もしかしたら、このアルバムは、ファンク以上に、粘っこくて、泥臭くて、底なしにまっ黒なのかもしれない。

ズートとフラナガン

パーソネルを見る。

ズート・シムズにトミー・フラナガン。

スイング・テナーの大御所と、気品のある抑制されたタッチが魅力のピアニストだ。

この二人の名前から連想されるサウンドは、上品にスイングする軽快な4ビートといったところか。

ところがどっこい、ここでのフラナガンのピアノは、かなりアーシーだ。

特に1曲目。

不協和音に近いクラスターを、ちょっと乱暴に叩きつけたり、想像以上に粘っこい「間」を設けている。優雅さはなく、むしろギラッとした凄みを垣間見る感じ。

ズートのテナーも、ここではかなり煤(すす)けている。

それに加えて、リズム陣は、ミンガス特有の泥臭いリズムを彷彿させてしまうコンビだと思う。

ジョージ・タッカー

また、ジョージ・タッカーのベースも見逃せない。
後ろに引っ張られるような重たいベースだ。

「ブチッ!」としたアタック感もたまらない。眩暈がするほど強烈なウネリだ。

1曲目のベースのイントロを聴いただけで、「まっ黒けっけ」な世界に引きずりこまれてしまう。

ジョージ・タッカーは、決してテクニシャンなベーシストとは言えないが、その分、一音にかける音の重さ、泥臭さのようなものは、かなりのもの。

ホレス・パーランと共演した作品もそうだが、演奏をアーシーで重たく彩る低音を奏でるベーシストだと思う。

アーシー!アーヴィンのテナー

そういえば、このアルバムは、泥臭くて素朴なメロディの曲が多い。

1曲目の《ザ・ブルー・ブック》、それに3曲目の《リトル・ジェーン》や、5曲目の《ラルゴ》あたりは、どっかりと重心が低く、まるで深く地の底まで食い込んでいるような感じだ。メランコリックさも漂っている。

そして、極めつけは、まるで棒を切ったように、まったく流暢ではないブッカー・アーヴィンの、詰まったようなトーンのテナー。

ああ、なんてアーシーなんだ。

アーヴィンは、微妙なニュアンスや抑揚ををつけないタイプのテナーを吹く。

ヴィブラートなどをかけずに、棒のように音を「ブーッ」と伸ばしっぱなしな、少し野暮ったい吹き方をする。

そこが彼の魅力なのだが、このような「棒吹き」のスタイルに合った曲ばかりが配置されているのが、このアルバムの魅力なのだろう。なにせ、ラストのナンバーを除けばすべてが彼のオリジナルなのだから。

まさにスタイルと曲想が、気持ち良いほど一致しているのだ。

このアルバムを聴いているうちに、口許が緩んでくれば、ジャズの底なし沼の中に落ちつつある証拠。

そして、こうなったら最後、全身泥だらけになり、二度と再び泥沼の中からは、這い上がれないのだ。

記:2002/02/28

album data

THE BOOK COOKS (Bethlehem)
- Booker Ervin

1.The Blue Book
2.Git It
3.Little Jane
4.The Book Cooks
5.Largo
6.Poor Butterfly

Booker Ervin (ts)
Tommy Turrentine(tp)
Zoot Sims(ts)
Tommy Flanagan(p)
George Tucker(b)
Danny Richmond(ds)

1960/04/06

 - ジャズ