カフェ・ボヘミアのホレス・シルヴァー、ケニー・ドーハム、そしてハンク・モブレイ
ジャズ・メッセンジャーズの『カフェ・ボヘミア vol.1』。
2曲目の《ザ・テーマ》における、ホレス・シルヴァーのピアノソロの出だしがのフレーズがカッコいい。
ポッキン・ポキンとした硬質な音色で疾走する彼のアドリブフレーズ。
昔はピアノでよくコピーしたものだ。
さらにこの旋律、ロック的なフィーリングも有しているので、ベースでも練習してみたこともある。
きっと、ギターで弾いてもハマるフレーズなんじゃないかと思う。
私の場合、まずは、このホレス・シルヴァーのアドリブのフレーズで『アット・ザ・カフェ・ボヘミアvol.1』に魅了された。
しかし、それだけではなく、まだまだ美味しさが満載されているのは言うまでもない。
1曲目の《ソフト・ウインズ》は、ベニー・グッドマン作のブルース。
のんびりと優雅な曲調だが、遊びの効くミドルテンポゆえ、ダブルテンポをはじめとした、アート・ブレイキーの様々なドラミングのバリエーションを楽しむことが出来る。
ケニー・ドーハムのリラックスした伸びやかなトランペットのプレイも心地よく、音色も滑らかでシルキーだ。彼の代表的なリーダー作『静かなるケニー』での拉げた音色も味があるが、こちらのケニーの音色は、上記アルバムにはない美しさがある。
お次に登場する急速調の《ザ・テーマ》。
手に汗握る演奏だ。
この曲で、例のホレス・シルヴァーのカッコいいピアノを堪能することが出来る。
3曲目の熱い《マイナーズ・ホリデイ》が、このアルバムの白眉か。
出たぁ! 必殺ブレイキーのドンドコドラムソロに、急速調なテーマのアンサンブル。
カッコイイ!
このスピード感、この迫力。
一時期はずいぶん虜になったものだ。
で、後半に登場するホレス・シルヴァーのピアノソロが、あらら?1曲前の《ザ・テーマ》と同じじゃん(笑)。
あらかじめ作曲されたストックフレーズだったようで。
でも、カッコいいから、よろしいのではないでしょうか。
ここでの聴きどころは、ブレイキーのドラミングだろう。
とくに、最後のテーマに戻る前がスリリング。
ドーハムのトランペットとブレイキーのドラムの一騎打ちだ。
ピアノとベースが抜けているぶん、ブレイキーのドラムが生々しく聴こえる。
とくに、ハイハットの音のインパクトの凄さがよく分かる瞬間だ。
“ッチャ!・ッチャ!”
と、2拍4拍で踏まれるハットの金属音を耳にすると、彼のエネルギー感とリズムのプッシュ力は、強靭なハット・ワークにあるということがよく分かる。
ボリュームを上げると、ハイハットのペダルがギシギシと軋む音も聞こえてくる。思いっきりペダルを踏みつけているのではないのだろうか? この勢い、この力強さが、メッセンジャーズの底力なのだろう。
4曲目の《アローン・トゥゲザー》は、ハンク・モブレイのテナーをフィーチャーしたナンバー。
ケニー・ドーハムはちょっと休憩。
ハンク・モブレイ・カルテットとしての演奏だ。
彼のメロウだが骨太な男の哀愁漂うバラード表現は素晴らしい。
後年の《リカード・ボサ》を吹き込んだりしていた頃のプレイよりも、はるかにタフでセンチメンタルな表現力だと思う。
モブレイをフィーチャーしたお次のナンバーは、ケニー・ドーハムをフィーチャーしたナンバー、《プリンス・アルバート》。
この曲の元ネタは、《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》だが、コードチェンジの面白さと難しさゆえ、ジャズマンにとっては格好の演奏素材だ。
だから、いまでも多くのミュージシャンがトライするスタンダードだし、あまりにもアドリブが素晴らしいと、そのアドリブの旋律がそのまま曲になってしまうこともある。
たとえば、チャーリー・パーカーの《バード・オブ・パラダイス》が良い例だ。
この《プリンス・アルバート》も、《バード・オブ・パラダイス》同様、ケニー・ドーハムのアドリブ・ラインがそのままテーマになってしまったような曲。
ハネ気味なメロディが、「あ、よっこらしょ!」な感じで、ユーモラスかつ、ちょっとイモっぽいのだが、それも含めて愛らしい旋律ではある。
ただ、ドーハムにとってはお手のもののテーマの旋律も、モブレイにとっては合わせるのに一苦労のようで、ところどころの合奏にバラつきがある。
しかし、このバラけっぷりも、ライブならではの臨場感と好意的に解釈しよう。
ぶっ太い低音でテーマからアドリブまでをダグ・ワトキンスが引き受ける《ホワッツ・ニュー》で気持ちをいったんクールダウン。
アルバムの流れの良いアクセントになっている。
ベーシストならずとも、真心こめて旋律を奏でるワトキンスのプレイに耳を傾けてみよう。
とはいえ、私が持っている輸入盤には収録されている《ホワッツ・ニュー》も、現在発売されている日本盤には収録されていない模様。
残念。
初期メッセンジャーズのライブといえば、『バードランドの夜』が傑作の誉れ高いが、その約8ヵ月後に録音された、こちらの『カフェボヘミア』も負けず劣らず素晴らしい。
メンバーの違いが、まったく違った味わいに仕上がっている。
『バードランド』は、とにかく一直線で疾走している熱い演奏が多いが、こちらは、ゆるりとカーブを描きながら、疾走したり、徐行したりと、もう少し演奏のバリエーションが広くなっている。
直線の『バードランド』に対して、曲線の『カフェ・ボヘミア』といった感じか。
記:2005/11/17
album data
AT THE CAFE BOHEMIA vol.1 (Blue Note)
- Art Blakey (The Jazz Messengers)
1.Soft Winds
2.The Theme
3.Minor's Holiday
4.Alone Together
5.Prince Albert
6.Lady Bird
7.What's New
8.Decifering The Message
Art Blakey (ds)
Kenny Dorham (tp)
Hank Mobley (ts)
Horace Silver (p)
Doug Watkins (b)
1955/11/23