仲良しコンビが奏でる《ワルツ・フォー・デビー》
エヴァンスとキャノンボール
ベースにスコット・ラファロ、ドラムスにポール・モチアンを擁したビル・エヴァンス・トリオがヴィレッジ・ヴァンガードで演奏した《ワルツ・フォー・デビー》はひたすら美しい。
しかし、軽やか、かつイージーな気分で聴けるキャノンボールとの共演も捨てがたい。
そう、『ノウ・ホワット・アイ・ミーン』だ。
逆人種差別
マイルス・デイヴィス・グループに在籍したエヴァンスは、その短い在籍期間ながらも、『1958マイルス』や『カインド・オブ・ブルー』などの名作を残した。
もっとも、正確には『カインド・オブ・ブルー』が録音されたのは、エヴァンスがマイルスのもとを去った後だが。
『カインド・オブ・ブルー』は、エヴァンスの後任ピアニスト、ウイントン・ケリーとスタジオで鉢合わせしての録音だったが、新任ピアニスト・ケリーがいる中、「この音にはヤツが必要だ」ということで呼び戻された形での録音だった。(ケリーはエヴァンスが呼び戻されたことに不満だったらしい)
いずれにしても、エヴァンスがマイルスの音楽に与えた影響は大きく、また、グループにも多大な貢献をしたことは事実。
彼が長く在籍しなかった理由の一つに、「逆人種差別」があったのではないか?
マイルス・デイヴィス、コルトレーン以下、全員メンバーは黒人。
その中にぽつんと白人エヴァンス。
もちろん、「いいプレイをすれば、俺は緑色の肌のヤツだって雇うぜ」といったマイルスのことだから、マイルスはエヴァンスには敬意を払ってはいただろう。
もっとも、マイルスのことだから、冗談交じりで「この白人野郎」といった言葉は会話の中で連発していたかもしれないが。
マイルスじゃないとすると、誰がエヴァンスに対して冷たかったか?
真相は分からないが、どうも一番の逆人種差別主義者は、コルトレーンだったようだ。
ハードでエネルギッシュなプレイを求めるコルトレーンは、エヴァンスの知的でスタティックなピアノには不満を持っていたのか、それとも後に「神」とされるコルトレーンも当時はまだ青かったのか、そのへんのところはよく分からない。
特にメンバー間での喧嘩やイザコザといった大きな話は伝わっていないし、退団後もエヴァンスは旅先からコルトレーンに手紙を書いていたようなので、口もきかないほどの犬猿の仲というわけではなさそうだが、ま、要は、黒人の中にポツリと一人いる白人エヴァンスは、微妙な習慣や暗黙の了解の違いなどから、「なんとなく居心地が悪かった」だけなのかもしれない。
ワルツ・フォー・デビー
ちなみに、バンドの中で、もっともエヴァンスに優しかったのが、キャノンボール・アダレイだったそうだ(ま、キャノンボールは、誰にでも優しく接しそうだけど・笑)。
エヴァンスがマイルスの元を去った後も、2人は仲良く共演している。
陽気なイメージの強いキャノンボールと、内省的なイメージの強いエヴァンスだが、両者のコンビネーションは良い。
その証拠が『ノウ・ホワット・アイ・ミーン』なのだ。
冒頭の《ワルツ・フォー・デビー》で決まり!
いつものエヴァンス「らしい」ピアノで始まるイントロ。
そこにブライトで軽やかなキャノンボールのアルトがふわっとはいった瞬間から、キュッと愛くるしい世界が構築され、一気に世界に引き込まれてしまう。
小憎らしいほどつかみがバッチリなこのアルバム、普段はそれほど聴かないのだが、時折、思い出したようにCD棚から取り出し、にんまりしている。
記:1999/08/01
album data
KNOW WHAT I MEAN (Riverside)
- Cannonball Adderley
1.Waltz for Debby
2.Goodbye
3.Who Cares?(Take 5)
4.Who Cares?(Take 4)
5.Venice
6.Toy
7.Elsa
8.Nancy(With the Laughing Face)
9.Know What I Mean?" (Re-take 7)
10.Know What I Mean?(Take 12)
Cannonball Adderley (as)
Bill Evans (p)
Percy Heath (b)
Connie Kay (ds)
1961/01/27,02/21,03/13