キャプテン・マーヴェル/スタン・ゲッツ
チックがリーダー?
タン・ゲッツがリーダーのアルバムだけれども、これは完全にチック・コリアに食われとりますな。
そう一瞬思わせてしまうほど、チックを筆頭に、スタンリー・クラーク(b)とトニー・ウィリアムス(ds)、
そして、アイアート・モレイラ(per)らリズムセクション全員が頑張りまくっています。
ま、それがリーダー、ゲッツの狙いだったとは思うんだけれども。
ドラムの人選で、トニーを選んだのはゲッツ本人だったというから、やはり、このサウンドキャラクターの形態はゲッツが望んだ結果なんでしょうね。
才能ある若手たちに好きにやらせて、で「ベテランの貫禄でオレ様が締めるぜ」と。
しかし、なんなんでしょう?
チックの「リターン・トゥ・フォーエヴァー」にゲッツがゲスト参加をしている。
そんな感触すら受けてしまうアルバムでもあるのです。
チックがリーダー?って。
でも、よく聴くと、やっぱりゲッツが音楽的なイニシアチブはキチンと握っている。
この絶妙なバランス加減が面白いアルバムではあります。
奔放な若手リズムセクション
もちろんゲッツは好プレイ。
特にスタンダードの《ラッシュ・ライフ》なんかはベテランの貫禄だよね。
しかし、時としてゲッツの存在感をはみ出してしまうほどの奔放さとヤンチャさが、チックたち若手の演奏にはあります。
ですので、このアルバム、面白い。
ゲッツのアルバムとしても聴けるし、チックのアルバムとしても聴ける。
プレ・リターン・トゥ・フォーエヴァーとしても聴けるしね。
一粒で、いや、一枚で3度おいしい。
しかし、しゃかしゃか元気な若手リズム隊に動じることなく、ドッシリと「ゲッツ・ペース」をこなしているゲッツの貫禄もさすがではあります。
ゲッツも、マイルスほどではないけれども、ボサノバに手を出したり、チック隊に手を出してみたりと、要は自分を奮起させてくれる己の守備範囲以外の要素を探し求めていたんでしょうね。
「かもめ」よりも「マーヴェル」のチック
『キャプテン・マーヴェル』は、ゲッツの代表作ではないかもしれないけれど、チックの代表作の一枚に挙げてもいいかもしれない。
少なくとも、「かもめのチック体験」をしていない私は、それほど「かもめのチック(リターン・トゥ・フォーエヴァー)」は、新鮮で新しい音楽には聞こえないんですよ。
世代的にも。
「フリージャズやコルトレーンばかりがかかっていた時代のジャズ喫茶に、新鮮な息吹きをもたらしてくれたアルバム」と評している方々は、おそらく、もう60歳を超えている世代だと思うんですね。
その頃の私は、まだ物心つくかつかないかの時期だったので、「かもめショック」というものは体験していないんです。
だから、物心ついて色々自分で音楽を聴く年齢になると、いかにも「かもめのチック」はジャケ写も含め、微妙に色褪せたフィルターがかかった作品に聴こえてしまうんですね(もちろん作品としてのクオリティは高いのですが)。
ということであれば、まだ生粋のジャズマンであるスタン・ゲッツが参加している「ジャズ的濃度」の濃いこちらのアルバムのほうが新鮮だったりするんですね。
チックの才能に触れることが出来、なおかつゲッツの「どこを切ってもジャズじゃないところはない」テナーサックスをたっぷりと堪能できるのですから。
そんなわけで、やっぱりイイですね、『キャプテン・マーヴェル』は。
記:2016/09/03
album data
CAPTAIN MARVEL (Columbia)
- Stan Getz
1.La Fiesta
2.Five Hundred Miles High
3.Captain Marvel
4.Times Lie
5.Lush Life
6.Day Waves
Stan Getz (ts)
Chick Corea (el-p)
Stanley Clarke (b)
Airto Moreira (per)
Tony Williams (ds)
1972/03/03