キャッティン・ウィズ・コルトレーン・アンド・クイニシェット/ジョン・コルトレーン&ポール・クイニシェット
「噛ませ犬」コルトレーン?!
コルトレーンは、プレスティッジレーベルで、多くの「かませ犬役」を買って出ている、……ような気がする。
小切手払いのブルーノートレーベルとは違い、プレスティッジレーベルは現金払い。だから、麻薬代欲しさで、あるいは麻薬じゃないにしても日銭ほしさでプレスティッジからのレコーディングのオファーに対しては、ほいほいと応じるジャズマンも多かったとのだろう。
コルトレーンもその一人だったのではないかと思われる。
そして、マイルス・デイヴィスのクインテットとして名をあげている最中の新人、といっても既に30にさしかかろうと年齢だが、それでも注目のテナーサックス奏者として、プレスティッジの社長、ボブ・ワインストックは、彼の名前を最大限に利用してアルバムをどんどん作ってしまおうと画策していたのかもしれない。
なにしろ、コルトレーン以外のテナーサックス奏者と共演させているアルバムだけでも以下のごとくなのだ。
エルモ・ホープ(p)がリーダーの『インフォーマルジャズ』では、ハンク・モブレーがコルトレーンと共演している。
ソニー・ロリンズがリーダーの『テナー・マッドネス』では、ロリンズとテナーバトル。
『テナー・コンクレイヴ』では、コルトレーン以外にも、ハンク・モブレー、アル・コーン、ズート・シムズら3人のテナー奏者が参加。つまり、テナーサックス奏者だけでも合計4人。
『インタープレイ・フォー・2トランペッツ・アンド・2テナーズ』では、ボビー・ジャスパーと。
それと、レーベルはプレスティッジではなくブルーノートになるのだが、ジョニー・グリフィンとハンク・モブレイという2人のテナーと共演するジョニー・グリフィンがリーダーの『ブローイング・セッション』というアルバムもある。
コルトレーンって、そんなに色々なテナーサックス奏者をぶつけたくなるタイプのテナー奏者だったのだろうか?
あるいは、コルトレーンのスタイルは従来のテナーサックスとはずいぶんと趣きを異にするタイプの演奏なので、様々なテナーサックス奏者をぶつけることで、彼のユニークさをリスナーにも分かりやすく伝えようというプロデューサー心が動いたのだろうか?
とにかくマイルスのクインテットに所属しながらも、プレスティッジのレコーディングにと、この時期のコルトレーンはせっせと日銭を稼いでいたのだろう。
そうそう、もう一人のテナーサックス奏者との共演アルバムを忘れていた。
そして、テナーサックス奏者ポール・クイニシェットだ。
アルバムは、『キャッティン・ウィズ・コルトレーン・アンド・クイニシェット』。
とても聴きやすい傑作アルバムといえる。
泰然自若とした「副大統領」
ポール・クイニシェットは、カウント・ベイシー楽団での活躍が有名なテナー奏者だ。
ベイシー楽団のテナー奏者といえば、レスター・ヤングが有名だが、クイニシェットは、ヤングの後釜のテナー奏者そとして注目を浴び、レスターヤングは「プレス(プレジデントの略で、大統領)」と呼ばれていたことに対し、彼は「Vice President(副大統領)」と呼ばれていた。
たしかに、そう呼ばれるだけの力量と貫禄の持ち主であり、このアルバムでも、新しいスタイルを開拓しようと奮闘するコルトレーンと良い対比をなしている。
まるで、クィニシェットは存在感と語り口で魅了する落語家だとすると、コルトレーンは勉強熱心な早口評論家のごとくだ。
つまるところ、悠然としており、泰然自若としているのだ。
だからこそ、コルトレーンが頑張れば頑張るほど、クィニシェットのテナーは、ベテランの味わいと風格を増していくようにすら錯覚してしまう。
もっとも、だからといってコルトレーンの演奏が駄演というわけでは決してなく、むしろ、マイルス黄金のクインテットで鍛えられた成果をここで発揮しているかのごとく。
なかなかスムースで快調なアドリブを聴かせてくれる。
「共演」あるいは「競演」
バトルものかと一瞬連想するが、そうではない。
聴いた感じは「競演」ではなく「共演」だ。
あるいは、協力しながら良質なジャズを築き上げているという意味では「協演」と呼んでも差し支えないだろう。
タイトルからはコルトレーンがリーダーのアルバムのようにも感じられるが、実際はポール・クィニシェットがリーダーのアルバムといっても良い。
なにしろ、コルトレーンが抜けたナンバーが2曲もあるからね。
この2曲で、いやアルバム中のどの1曲を聴くだけでも、コルトレーンとはかなりタイプの違うタイプのテナー奏者だということは分かるだろう。
とても暖かくユーモアがあり、聴いているとほっこりとしてくる。
もうこの当時から古きよき時代のテナー感を漂わせていたのだろう。
そのテナー奏者に対して新進気鋭のテナー奏者コルトレーン。
まるで別の楽器奏者同士のコラボのように聴こえるので、バトル感は皆無。
だからこそ、穏やかかつごくごく和やかなハードバップとして安心して聴ける内容に仕上がっている。
コルトレーンのキャリアの中においては、エポックメイキングな作品というわけではないが、この時期のコルトレーンが(つまり、プレスティッジ時代のコルトレーンが)一番好きというジャズファンが多いのも、このような何の変哲もない演奏にも、真面目一徹、愚直かつひたむきにジャズテナーサックスの研鑽を怠らない姿勢が音として表出されているからなのだろう。
だからこそ、完成されたスタイルを「芸」として魅せる術に長けたベテランテナー奏者・ポール・クィニシェットの存在が効いているのだと思う。
記:2019/05/25
album data
CATTIN' WITH COLTRANE AND QUINICHETTE (Prestige)
- John Coltrane and Paul Quinichette
1.Cattin'
2.Sunday
3.Exactly Like You
4.Anatomy
5.Vodka
6.Tea for Two
John Coltrane (ts)except on #3 & #6
Paul Quinichette (ts)
Mal Waldron (p)
Julian Euell (b)
Ed Thigpen (ds)
1957/05/17
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