クリフ・クラフト/クリフ・ジョーダン
ほのぼのとした個性を楽しめる
個人的にはブルーノートのクリフ・ジョーダンの中ではもっとも愛聴しているアルバムだ。
理由は、まず選曲がいい。
チャーリー・パーカーの曲が2曲も演奏され、さらにはデューク・エリントンのナンバー、そしてジョーダンのオリジナルが3曲と、半分が既存の名曲、半分がジョーダンの個性を味わえる曲と、バランスの良い曲選びがなされている。
また、曲のみならず、クリフ・ジョーダンのマイルドなテナーと、大らかでほのぼのとした個性をたっぷりと味わえることもこのアルバムの大きな魅力だ。
サイドメンも申し分なし!
さらに、ジョーダンの味わいをさらに引き立てる名脇役たちの存在も見逃せない。
たとえば、もう一人の管楽器奏者がアート・ファーマーだということ。
味わい深いニュアンスを醸し出すジョーダンのテナーを邪魔することなく、存分に引き立て、さらに自身の持ち味も出過ぎることなく主張するファーマーは、とても素敵なセンスの持ち主だ。
さらに、リズムセクション。
これは、ジャズを、しかも50~60年代のハードバップをたくさん聴きこんでいる人にしか通じないニュアンスなのかもしれないが、ピアノがソニー・クラークで、ベースがジョージ・タッカーということも大きなポイントだ。
この二人が演奏に参加するだけで、どうあがいても、いやがおうでも「ジャズ色!」というしかない色に音を染めこんでしまう。
ソニー・クラークのコクのあるピアノの音色。
そして、タッカーの流暢とはいえないが、無骨なベースの音と、ちょっと野暮ったいほどの発音のタイミングがたまらない味わいなのだ。
この2人のかもし出す、本当に微妙なニュアンスなのだが、言葉に形容することに限界があることを十分に自覚しつつも、要するに「黒い」音。
このニュアンスに覚醒してしまうと、無条件に耳の「食欲」が刺激されてしまう。
あたかも縁日や初詣の屋台から香るソース焼きそばの香りに自動的に食欲がわいてきてしまうような、そう、分かる人には分かる、あの感じだ。
特に、今風の流暢なベース表現に慣れてしまった人の耳には、ジョージ・タッカーのベース・ワークは、テクニック不足の不器用な演奏に聞こえてしまうかもしれないが、彼のベースワークあってこその名盤もこの時代には少なくない。
ジョージ・タッカーのベースに、当時、ホレス・シルヴァーのグループでドラムを叩いていたルイス・ヘイズが加われば(ちなみにファーマーもシルヴァーのグループの一員だった)、もうジャズ純度は100パーセント。これ以上なにを求めようや、という世界なのだ。
このアルバムの主人公、クリフ・ジョーダンは、尖がった個性の持ち主ではないので、悪く言えばアクの少ないオーソドックスなテナーサックス奏者なのかもしれない。
しかし、マイルドなフレージングの随所に見え隠れする表情豊かなニュアンスは、2度3度聴いているうちに、次第にじわじわと聴き手の中に染み込んでくることだろう。
一度魅力に目覚めてしまうと、毎日ではないが、折に触れて耳が求めてくる不思議な味わいが、このアルバムにはある。
記:2011/02/16
album data
CLIFF CRAFT (Blue Note)
- Cliff Jordan
1.Laconia
2.Soul-Lo Blues
3.Cliff Craft
4.Confirmation
5.Sophisticated Lady
6.Anthropology
Cliff Jordan (ts)
Art Farmer (tp)
Sonny Clark (p)
George Tucker (b)
Louis Hayes(ds)
1957/11/10