コンキスタドール/セシル・テイラー
「分かりやすい」セシル・テイラー
ブルーノートに残したレコーディングのうちの一枚、セシル・テイラーの『コンキスタドール』。
これに収録されている演奏は、セシル・テイラーの集団即興アンサンブルの中では、もっとも「分かりやすい」内容なのかもしれない。
私がテイラーの世界にすんなり入っていけたのも、最初に購入したのがこのアルバムだったからということが大きいと思う。
もし他のアルバムを最初に聴いていたら、これほどテイラーに入れ込んでいたかどうか。
ここで言う「分かりやすさ」というのは、「演奏上でのストーリーが見えやすい」ということ。
もっと言ってしまうと、「演奏中のクライマックスと、そうでないところが分かりやすい」ということでもある。
要するにメリハリがハッキリしているということと、ドラマティックな内容ということでもある。
鳥肌が立つ瞬間がいくつもある
だからといって「ヤワ」な内容というわけでは全然なくて、鳥肌がゾクゾクッとくる瞬間がいくつもある演奏でもある。
「鳥肌どころ」は、一曲目のタイトル曲に集中する。
まずは、冒頭のピアノ一発にいきなりやられる。
次に、このピアノのイントロに覆いかぶさるようにつながる、管楽器のアンサンブル。これにもやられる。
輪郭と焦点をぶらすように、わざと音のタイミングをズラして奏でられるトランペットとアルトサックスの合奏は、まるで遠近法のズレた風景画を見ているような錯覚を覚える。
不気味な嵐の予兆だ。
この管楽器の短いアンサンブルのブレイクの後、ふたたびテイラーのピアノだけのスペースになるが、ここが最初のクライマックスだ。
ためらいがちに、そして次の瞬間、すさまじい勢いで一気に高音へかけのぼるテイラーの魔法の指。このパターンが繰り返されるが、見事な演奏の“締め”方だと思う。
曲の導入部からして、いきなり3回も鳥肌のゾワゾワゾワ~が襲ってくるので、あとの演奏の凄さは推してしるべし。
音による物語
《コンキスタドール》の肌触りが、他のテイラーの即興演奏違うのは、ひとえに、鳥肌のゾワゾワゾワ~の質の違いなのだと思う。
テイラーの演奏の多くは、「来るぞ!」と待ち構えたところで、はぐらかしを食らわせたりと、聴き手の期待を覆したり、かき乱したりする展開が多い。
そうでなければ、圧倒的な音量や音塊の迫力でカタルシスに導くパターンだ。
しかし、《コンキスタドール》のゾワゾワ感は、ブレイクの瞬間に奏でられるピアノや、まさにこのタイミングにこのフレーズしかあり得ないと思わせるほどの構成美に感じられる。
《コンキスタドール》は、コンパクトな編成ながらも、実に細部まで神経の行き渡った緻密な構成と、同時に「音による物語」の大きなウネリも感じることが出来るところが、他のテイラー作品とは一線を画するところだと思う。
けっこう、決められている箇所が多く感じられ、それはおそらく良質な作品を提供することを第一義としたアルフレッド・ライオンのブルーノートならではの方針が演奏に反映された結果なのだろう。
テイラー入門に最適な1枚だ。
記:2003/10/10
album data
CONQUISTADOR (Blue Note)
- Cecil Taylor
1.Conquistador
2.With(Exit)
3.With(Exit)〔alternate take〕
Cecil Taylor (p)
Bill Dixon (tp)
Jimmy Lyons (as)
Henry Grimes (b)
Alan Silva (b)
Andrew Cyrille (ds)
1966/10/06