クロイドン・コンサート/オーネット・コールマン
英国のコンサートホールでのライヴ
オーネット・コールマンのアルバムはたくさん出ているが、なかでも私はデヴィッド・アイゼンソン(b)と、チャールス・モフェット(ds)と組んだピアノレストリオのアルバムが好きだ。
有名なのがブルーノートの『ゴールデン・サークル』の2枚だが、その数ヶ月前に、ロンドンでおこなわれた演奏も、忘れてはいけない。
アルバムの正式タイトルは『アン・イヴニング・ウィズ・オーネット・コールマン』だが、邦題は『クロイドン・コンサート』となっており、ジャズ話をする際は、こちらのほうが通りが良いかもしれない。
私は厚紙の箱に2枚のCDが収納された日本盤(徳間から発売されたもの)を所有しているが、特にディスク1の後半を愛聴している。
レコードでいえば、1枚目のB面だ。
A面はまるまる1曲(というよりは10章といえばいいのかな?)、木管楽器のための組曲で、オーネットがこのコンサートのために書き下ろしたものだという。
演奏にオーネットや、トリオのメンバーは参加しておらず、バスーン、クラリネット、オーボエ、ホルン、ヴァイオリンの演奏が繰り広げられる。
クラシック方面に造型の薄い私としては、この演奏がよくわからないし、良し悪しを云々できるほどの知識も感性もヴォキャブラリーも持ち合わせていない。
広がりと機動力のあるアンサンブル
よって、よっぽどのことがない限り、この前衛クラシック的な演奏は飛ばして、オーネット・コールマン・トリオによる演奏、《クレージーマンズ・ドリーム》を聴く。
これを聴くために、私は厚紙の箱からディスクを取り出して聴いているといっても過言ではない。
なんて奔放な演奏、あふれ出んばかりの歌心なのだろう。
鋭角的な「ゴールデンサークル」の演奏ももちろん素晴らしいが、「クロイドン」での演奏は、ふくよかな広がりを感じる。
基本、やっていることは「ゴールデンサークル」の《フェイセス・アンド・プレイセス》や《ディー・ディー》などの演奏と変わらない。
表現の奥行きや、たった3人でありながらも驚くほどのダイナミクスの広さ、そしてそれらを滑らかに行き来するアンサンブルの巧みさなど、このトリオのコンビネーションの素晴らしさは特筆に価する。
ひとつの方向に突進し、収斂してゆく異常な速度感を感じる『ゴールデン・サークル』での演奏に対し、こちらの『クロイドン』の《クレージーマンズ・ドリーム》は、もう少し広がりを感じられる。悪く言えば、のほほんとしているのかもしれないが、オーネットの尽きることのない歌心を楽しむには、もってこいの演奏だと感じる。
パーカーが到達した「高み」に、オーネットは、異なるアプローチで到達したのではないかとっすら思わせる瞬間を記録した演奏、それが《クレージーマンズ・ドリーム》や、『ゴールデン・サークル』の《フェイセス・アンド・プレイセス》ではないかと私は思うのだ。
記:2019/07/13
album data
AN EVENING WITH ORNETTE COLEMAN (Polydor International)
- Ornette Coleman
1.Sounds And Forms For Wind Quintet - Movements 1-10
2.Sadness
3.Clergyman's Dream
4.Falling Stars
5.Silence
6.Happy Fool
7.Ballad
8.Doughnuts
Ornette Coleman (alto saxophone,violin,trumpet)
David Izenzon (b)
Charles Moffett (ds)
Cecil James (bassoon)
Sidney Fell (clarinet)
Edward Walker (flute )
John Burden (horn)
Derek Wickens (oboe)
1965/08/29
Recorded at Fairfield Hall,Croydon,England
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