ビル・エヴァンス・アット・タウンホール/ビル・エヴァンス
2022/11/18
ベース、良い音
チャック・イスラエルのベースが好きだ。
フレーズというよりは、音色に惹かれる。
艶っぽい、しっとりとした音色。
必然的に奏でられる音楽も、どこかしら艶っぽさを増した佇まいとなる。
フレーズは派手ではない。むしろ、地味といっても良いぐらいだ。
しかし、艶っぽく、ふくよかで、そしてわずかに濡れた低音は、音色だけで充分に私を満足させるだけのものがある。
ビル・エヴァンスはスコット・ラファロが亡くなった後は、しばらくピアノを弾く気になれなかったのだという。
そして、晩年に共演した最後のベーシスト、マーク・ジョンソンをして、ようやく「ラファロに比肩しうるベーシストが見つかった」とコメントをしているので、エヴァンスにとっての最良のパートナーは、ラファロ、次いでマーク・ジョンソンとなるのだろう。
次いで、活動期間の長かったエディ・ゴメスか……?
ラファロ亡き後、そして、エディ・ゴメスを自己のトリオに迎えるまでの間、しばらくの間エヴァンスと共演したベーシストがチャック・イスラエルだった。
フレーズに関していえば、ラファロほどイマジネーションに溢れているわけでもなく、ゴメスほどアンサンブルに喰いこんでくるタイプのベースでもなかった。彼らほど派手でもなく、したがって言い方は悪いが、“華”の無いベーシストなのかもしれない。
そして、もしかしたらエヴァンスにとってのイスラエルは、イマジネーションを喚起するにあたっては役不足だったのかもしれない。
しかし、私はエヴァンスの美しく内省的なピアノをとても良いかたちで彩っているベーシストこそチャック・イスラエルなのだと思っている。
久々に『アット・タウン・ホール』を聴いてみた。
ポン・ポン・ポン!
はじけるようにバウンスする、ふくよかで、アタックの丸いチャック・イスラエルベース。暖かく、低音の芯もしっかりしている。
ベースの音を追いかけるだけでも、単純に、とても気持ちが良い。
ラファロのように、時としてエヴァンスを挑発するかのようなフレーズや、アグレッシブにピアノに絡んでゆくようなアプローチは無いが、暖かい音色と、躍動するリズム感覚で、エヴァンスを良い形で刺激していると思う。
一曲目の《アイ・シュッド・ケア》のエヴァンスのノリ具合、そして小気味良く中空を踊るチャック・イスラエルのベースから、一気にこのアルバムの世界に引きずりこまれる。
ちなみに、この《アイ・シュッド・ケア》の演奏は、私はタイトル・クレジットを見るまでは《アイ・シュッド・ケア》だとは気が付かなかった。
この『アット・タウン・ホール』は、彼の父が亡くなった2週間後に出演したタウンホールでの演奏を収録したものだ。
亡き父親・ハリーに捧げる組曲《イン・メモリー・オブ・ヒズ・ファーザー》が演奏されている。
なお、このアルバムの表記は、Vol.1となっているが、現在のところVol.2は出ていない。
Vol.2用に《柳よ泣いてくれ》や《ワルツ・フォー・デビー》などの音源が残されている、らしい。
記:2003/03/04
album data
BILL EVANS AT TOWN HALL (Verve)
- Bill Evans
1.I Should Care
2.Spring Is Here
3.Who Can I Turn To
4.Make Someone Happy
5.Solo-In Memory Of His Father
a) Prologue
b) Improvisation on Two Themes
b) Story Line-Turn Out The Stars
c) Epilogue
6.Beautiful Love
7.My Foolish Heart
8.One For Helen
Bill Evans (p)
Chuck Israels (b)
Arnold Wise (ds)
1966/02/21
追記
『アット・タウン・ホール』で味わうことが出来るビル・エヴァンスのピアノの表情は、他のアルバムにはないニュアンスをたたえていると思います。
もちろん出てくるフレーズやハーモニーは、いつものエヴァンスと変わることはないのかもしれませんが、音の勢いというか表情ね。
悲しみと怒りがないまぜになっているような、そしてそのような感情がピアノの音を前に押し出すような推進力になっている、そんな感じがするのです。
美しさは変わらないのですが、それだけではない「内に秘めた強さ」というのかな?
最近は、そんなことを考えながら聴くことが多くなってきています。
個人的なお気に入りは《ビューティフル・ラヴ》です。
記:2016/04/21