フライ・ウィズ・ザ・ウィンド/マッコイ・タイナー
力技!コブハムのドラミング
山間を突き抜ける爽やかな突風。
これを演出するは、ビリー・コブハムの強力なドラムだ。
豪快、ダイナミック。小節からはみ出しちゃうほどの叩きまくり。
この小節をはみ出してしまう豪快な“字余り”っぷりは、最初に聴いたときは大笑いしてしまったが、よく聴くと、この《フライ・ウイズ・ザ・ウインド》という曲には、この叩き方しかなかったんだ!と納得してしまう、いや、納得させられてしまう。
力技の勝利だ。
暑苦しいけど爽やかさを演出するストリングス
マッコイのピアノも負けてはいない。
力強いペンタトニックのフレーズの連打。
ワンパターンだが迫力満点。
この「暑苦しい2人」による熱いはずの演奏が、不思議なほどに爽やかに感じるのはなぜだろう?
この熱を沈静化&優雅に演出するストリングスの参加が功を奏しているのかもしれない。
また、クサいといえばかなりクサいのだけれども、ハープの参加が、演奏にドラマティックな色を添えていることも忘れてはいけない。
不思議と、ストリングスやハープが加わると、ストーリー性が強くなる感じがする。大画面で映画を観ているような、ビジュアル色の強いストーリーだ。
このアルバムの壮大な世界は、ストリングスやハープ参加による、大袈裟なくらいな演出が功を奏しているといえよう。
5つの曲によるストーリー
壮大で感動的ななストーリーの幕開け《フライ・ウイズ・ザ・ウインド》。
全曲を引き継ぐようにテンション高く、希望に燃えた2曲目の《サルヴァドール・デ・サンバ》。
この2曲で勢いづいた後、美しく幻想的なスローテンポの《ビヨンド・ザ・サン》で、ちょっと小休止。
そして、ラストの大団円の予感漂わし、なおかつ、物語の起承転結でいえば「転」にあたる《ユー・スティープド・アウト・オブ・ア・ドリーム》から、一気にラストの《ローレム》へ。
まるで組曲のように、5つの曲がストーリー的につながっている。
本来のレコードだと、A面からB面にひっくり返す必要があるが、ここはCDというメディアの恩恵を利用して、一気に最初から最後まで聴きとおしてしまおう。
音による映像と言葉のないストーリー。ジャケット通りの、高くそびえる山々がまるで目の前に展開されるような壮大な自然の物語を堪能しよう。
心地よい疲労感と感動に包まれるはずだ。
軽やかなフルートソロ
聴きどころはたくさんあるが、個人的には、タイトル曲のヒューバート・ローズのフルートソロが始まる瞬間がカッコいいと思う。
飛行機でいえば、燃料タンクを捨てて、軽くなった機体が一瞬に上昇する感じの飛翔感だ。
風と共に飛べ!
まさに、ジャケット通りのサウンド。
山間を吹き抜ける爽やかな突風だ。
この音楽による情景描写のアルバムは、「しょせん室内で描かれたエセ大自然に過ぎない」というイジワルな見方をする人もいるが、私としては、素直に音の迫力と爽やかな演奏を楽しめる名盤であると位置づけたい。
記:2004/03/24
album data
FLY WITH THE WIND (Milestone)
- McCoy Tyner
1.Fly With The Wind
2.Salvadore De Samba
3.Beyond The Sun
4.You Steeped Out Of A Dream
5.Rolem
McCoy Tyner (p)
Hubaert Laws (fl,alt-fl)
Paul Renzi (fl,piccolo-fl)
Raymond Duste (oboe)
Stuart Canin,Peter Schafer,Daniel Kobialko,Edmund Weingart,Frank Foster,Myra Bucky,Mark Volkert (vio)
Selwart Clarke,Daniel Yale (violas)
Kermit Moore,Sally Kell (cello)
Linda Wood (harp)
Ron Carter (b)
Billy Cobham (ds)
Guilherme Franco (tambourine) #2
1976/01/19-21