フォーリン・イントリーグ/トニー・ウィリアムス
電子ドラムと新生ブルーノート
冒頭からいきなり響きわたる電子ドラムの音にのけぞってしまうかもしれないが、内容は極めてオーソドックスかつストレートアヘッドなジャズだ。
ちなみに、電子ドラムの使用はトニーの意思ではなく、ブルーノートからのオーダーだと言われている。
新生ブルーノートならではの意気込み(目新しさ?)を打ち出すために、あえて、あのトニーに電子楽器を叩かせてみたかったのかもしれない。
「シャープ」から「ウォーム」へ
トニー・ウィリアムスのドラミングといえば、マイルス・デイヴィス・クインテットでの活躍で多くの方がご存知の通り(たとえば『フォア・アンド・モア』など)、シャープで攻撃的な印象がある。
彼のリーダー作『スプリング』のドラミングも知的な凶暴さを秘めていて、研ぎ澄まされた鋭利な刃物を思わせるものがある。
当時は、あのマイルスをも唸らせたドラミング。
あまりに凄いドラムを叩くために、酒を出す店での演奏許可が下りない17歳の年齢のトニーでも、マイルスはジャッキー・マクリーンのグループから彼を引き抜き、演奏できる場所よりも、人材優先でトニーを起用した。
それほどの神童トニーは、20代にも満たない年齢で、全員が年上でキャリアを積んでいるバンドメンバーたちを鼓舞しまくり、演奏のイニシアチブを握るほどの存在だった。
シャープなドラミングとともに、当時のエピソードから想像するに、性格面もかなりシャープで、歯に衣着せぬ「坊や」だったのだろう。
しかし、年齢とともに性格も丸くなってきたのか、音楽にも柔らかさや円熟味が増してきている。
40歳の時に録音した『フォーリン・イントリーグ』は、まさにシャープでワイルドだったトニーから、ウォームでワイルドなトニーに変化しているのだ。
変化したドラミング
とにかく、ドラミングの変化には驚かされる。
マイルス時代や、自己のバンド、ライフタイム時代の細かく刻むシャープなシンバルワークは影を潜め、骨太でエモーショナルなドラミングに変化しているのだ。
いちドラマーとして終わるのはなく、トータルな音楽家として活躍したいと考えるようになったトニーは、作曲やアレンジを勉強し、このアルバムに収録されている《シスター・シェリル》などの印象的なナンバーを作曲するようになった。
トニーが作り出すメロディは、シンプルでわかりやすい。
ビバップ的な複雑に蛇行を繰り返す旋律ではなく、鼻歌で口ずさめるほど、素朴なテイストの曲が多いのだ。
このアルバムでのドラミングも、自らが作った曲に合わせてのスタイルなのだろう。
バップ好きの私としては、トニー作曲のメロディは、このアルバムの目玉とされる《シスター・シェリル》を含め、ちょっと甘くて単純すぎる気がするが、それでも、太いエモーショナルを放つドラミングが、旋律を巧みに彩っているので、メロディがシンプルなぶん、かえって「感動度」を高めているところがミソ。
演奏をアグレッシブにプッシュし、強力な推進剤として機能していた若い頃のドラミングとはうって変わり、この時期のトニーのドラミングは、曲を立体的に彩る方向に向かっているのだ。
曲の骨格を際立たせる彼の力強いドラミングは、シンプルなメロディの曲群をよりいっそう骨太で力強いものとし、エモーショナルさも付加し、トータルに音楽全体を包む方向にシフトしている。
細かく刻むようにシンバルを連打していたかつてのトニーから、大きく太くうねるドラミングに変化したトニーのドラミング。
特にバスドラがパワフルになったと感じる。
演奏のいたるところにアクセントで挿入されるバスドラやタムは、ドッシリとした揺るぎない安定感を演奏にもたらしていると同時に、音楽のスケールもワイルドな広がりを見せるようになった。
参加楽器のバランスも申し分なく、ボビー・ハッチャーソンのヴィブラフォンをはじめ、ウォレス・ルーニーのトランペット、それにドナルド・ハリソンのアルトサックスと、ブライトな楽器同士の音色のプレンディング具合が、より一層演奏を立体的に彩り、曲に豊かな色彩をもたらしている。
最後まで安心して聴きとおせる一枚だ。
記:2016/10/07
album data
FOREIGN INTRIGUE (Blue Note)
- Tony Williams
1.Foreign Intrigue
2.My Michelle
3.Life of the Party
4.Takin' My Time
5.View in iTunes
6.Sister Cheryl
7.Arboretum
Tony Williams (ds, electric-ds, drum machine)
Wallace Roney (tp)
Donald Harrison (as)
Bobby Hutcherson (vib)
Mulgrew Miller (p)
Ron Carter (b)
1985/06/18-19