ダンサーの恋人に捧げた曲 《グロリアズ・ステップ》
2021/02/10
《グロリアズ・ステップ》という曲が好きだ。
信じられないぐらいに美しい。
作曲したのは、ビル・エヴァンス・トリオに在籍していた天才ベーシスト、スコット・ラファロ。
グロリアは、彼のガールフレンドグロリア・ゲイブリエルのこと。
彼女はダンサーだった。
だから、グロリアのステップ。
グロリアズ・ステップ。
こんなに美しい曲を作ってくれた彼氏を持ったグロリアさんは、さぞかし幸せだったことだろう。もっとも、ほどなくして、そのラファロは交通事故で亡くなってしまうわけだが……。
いつも《グロリアズ・ステップ》を聴くたびに思うのだが、ラファロはこの曲をベースで作曲したのだろうか? それとも、ピアノで作曲したのだろうか? それとも鼻歌で?
あくまで私の推測だが、この曲は、やはりベースでメロディを作ったのではないかな?
ベースのハイポジションでこのメロディを奏でると、メロディの一音一音の比較的近い位置関係で成り立っていることが分かる。
この美しい音の配列に、エヴァンスが世にも美しいハーモニーをつけ、さらにエヴァンスのピアノにラファロが弾力のあるマシュマロのような低音で色を添える。
なんとも理想的なコラボレーション、そして美しい共同作業。
ラファロのゆらめくような低音に触発されたのか、エヴァンスが繰り出す旋律も美しい。
この音が45年以上も前のヴィレッジ・ヴァンガードで録音されたことに感謝しなければならない。
ラファロが作った美しい旋律も、エヴァンスのピアノの協力無しでは、おそらくはこれほどまでに品格高い曲にはなりえなかっただろう。
聴くたびにウットリ。
しかし、「ジャズは曲ではない・演奏だ」という言葉もあるとおり、たとえどんなに美しい曲でも、演奏する人次第ではこの曲の品格がガラガラと音を立てて崩れてしまうこともある。
その典型例が、コレ。(笑)
水野正敏の『電気スタンダード』。
エレキベースだから良いとか悪いとかではなく、音の佇まい、曖昧な音程や、音の腰の据わり具合、軽やかで繊細な曲ではあるが、ベースが上滑りしている感は否めない。
ピアノは、まあまあイイ感じだけど。
逆に、このアルバムのナンバーを聴いてから、ますますビル・エヴァンスとスコット・ラファロのヴァージョンが好きになってしまった。
記:2002/02/06