グッド・ニュース・フロム・アフリカ/アブドゥーラ・イブラヒム(ダラー・ブランド)

   

朝にかけると清々しい気分に

清々しいアルバムだ。

朝にかけると、爽やかな目覚めとともに、「よし、今日も一日頑張るぞ!」という気分になってくる。

実際、一曲目冒頭のダラー・ブランドの歌声と、それに続く優しいピアノ、やんわりと空気を包むようなベース、そして、「生命の交歓」とでも言うべき二人のヴォーカルのかけ合いを聞いていると、暗い部屋で寝床の中にいつまでも丸くなっているのが馬鹿馬鹿しくなってくる。

天気が良いと、さらにその気分に拍車がかかり、すぐにでもカーテンを開けて、明るい陽光を部屋に注がせたくなるし、すぐにでも窓を開け放ち、部屋の中に充満している澱んだ空気を逃がしたくなる。

私は健康診断を受けるたびに、病気の人よりも低いんじゃないですか? と言われるほどの低血圧だが、なぜか朝には強く、比較的早起きなほうだ(だから「低血圧=寝起きが悪い」というのは嘘なんじゃないかと思っている)。

反対に、うちの女房は寝起きが悪く、休日は私よりもずっと遅い時間に起きる。

セシル・テイラーをかけても、ドルフィーを流しても、頑なに布団の中からは出てこないくせに、この『グッド・ニュース~』をかけると、眠そうな目をこすりながら寝室から出てくるので、このアルバムの演奏からは、やはり、寝床の中で丸まっているどころではないぞ、と思わせる波動のようなものがあるのかもしれない。

和音の使い方、そして、ダラーブランドとベースのジョニー・ダヤニの歌声が徐々に高揚し、盛り上がってゆく過程は、まるでゴスペルそのもの。

素朴でシンプルな演奏と歌声の中には、人間の持つ原初的な生命力やパワーが漲っている感じがする。

2曲目のイブラヒム(ダラー・ブランド)が吹くフルートと、ベースのデュオもなかなか素敵だ。ピアノだけではなく、彼の吹くフルートもなかなか味がある。

決してテクニシャンというわけではないが、彼のフルートからは芯のしっかりとした力強さが感じられる。

3曲目の勢いのあるピアノに続くベースソロもなかなか迫力があってカッコいい。そして、中々のテクニシャンだと思う。

サクッ!としたベースの音色も心地よい。

そして、ベースソロの後に畳み掛けるように入ってくるピアノ、この勢い、この硬質な感じ。ここでは『アフリカン・ピアノ』で見せたアグレッシブな一面を垣間見ることが出来る。

朝、この3曲までを聴けば、大抵の人は寝床から這い上がって窓を開け放っているに違いない。

それとも、このアルバムで寝床から清々しい気分で這い出るような人間がいるのは、我が家だけなのかな?

『アフリカン・ピアノ』で衝撃を受けて以来、ダラー・ブランド(改宗後はアブダーラ・イブラヒム)のアルバムは、夢中になって10数枚集めたが、その中での個人的なベストは、ここ10年の間は、『グッド・ニュース・フロム・アフリカ』に落ち着いている。

記:2002/07/04

album data

GOOD NEWS FROM AFRICA (Enja)
- Dollar Brand (Abdullah Ibrahim)

1.Ntsikana's Bell
2.Msunduza
3.Good News
4.Swazi
5.Waya-Wa-Egoli
6.Adhan & Allah-O-Akbar
7.The Pilgrim
8.Moniebah
9.The Pilgrim

Dollar Brand (p,vo,fl)
Johnny Dyani (b,vo,bells)

1973/12/10

 - ジャズ