ホレス・シルヴァー・アンド・ザ・ジャズ・メッセンジャーズ
メロディメーカーでもあった
あるインタビューでホレス・シルヴァーはこう答えている。
もし、拳銃をつきつけられて、ピアノか作曲のどちらか片方だけを選べと脅されたら、自分は曲作りのほうを選ぶだろう、と。
ケンケン!と激しくドライブするバッキングに、ポキポキと硬質なフレージング。特徴あるスタイルゆえ、とかくピアノの演奏に視線が注がれがちなシルヴァーだが、たしかに彼の作・編曲のセンスには非凡なものがある。
アルバム中の最低1曲か2曲は、1度聴いたら忘れられないほど印象深いメロディが収められていることは周知の通り。
その秘密は“血”なのかもしれない。
彼の父親はポルトガル人。
黒人の母親は聖歌隊でゴスペルを歌っていた。つまり彼の音楽的なルーツは、両親から受け継いだであろう「ラテン」と「ブルース&ゴスペル」なのだ。
彼の中では両者が混在し、微妙なバランスを取り合いながら魅力的な旋律が生まれるのだろう。
そういえば、別なインタビューで彼は曲作りについて、こう語っていた。根っこはブルースとゴスペル、スパイスとしてエスニックを振り掛ける、と。
『ホレス・シルヴァー&ジャズ・メッセンジャーズ』の曲を見てみよう。
彼言うところの、根っこの部分。
つまりゴスペル色の強い曲が目立っているようだ。
筆頭は《ザ・プリーチャー》だろう。
古い黒人霊歌のコード進行を使って書いたという、あまりにキャッチーな曲調。
アルフレッド・ライオンは生涯認めなかったが、この曲のヒットによって、当時のブルーノートの財政難は救われた。
もう一つの目玉は、アーシーな味が魅力な《ドゥードリン》か。
ジャズ・メッセンジャーズ結成直前の録音となる本作は、ハンク・モブレイ作の1曲を除けば、すべてホレスのオリジナルで固められている。
先述の2曲はもちろん、明るく快活な《ルーム608》、メランコリックな《クリーピン・イン》と、様々なタイプの曲が並び、まるで彼の頭の中の引き出しの中を覗き見ているようだ。
シルヴァーは、40枚近くのアルバムをブルーノートに残すが、ライオンが長い間、彼を録音し続けたのは、演奏面のみならず、レーベルのテイストに沿うメロディメーカーとして全幅の信頼を寄せていたからなのだろう。
そして、『ホレス・シルヴァー&ジャズ・メッセンジャーズ』を聴けば、長いキャリアの初期の段階において、既に彼の類稀なるメロディメーカーとしての才能は花開いていたのだということがよく分かるのだ。
記:2010/08/29
album data
HORACE SILVER AND THE JAZZ MESSANGERS (Blue Note)
- Horace Silver
1.Room 608
2.Creepin' In
3.Stop Time
4.To Whom It May Concern
5.Hippy
6.The Preacher
7.Hankerin'
8.Doodlin'
Horace Silver (p)
Kenny Dorham (tp)
Hank Mobley (ts)
Doug Watkins (b)
Art Blakey (ds)
1954/12/13 #1,2,3,8
1955/02/06 #4,5,6,7