プロの「持ち直し力」もしくは「立て直し力」~ハッチャーソンのモントルー
あるピアニストのマネージャーが以前、こう仰っていました。
プロとはいえども、共演者との打ち合わせ不足や、共通認識が取れていなかったりなどの理由で、アンサンブルがズッコけてしまいそうになることも無いわけではない。
もちろん、場数を踏んでいるプロのジャズマンたちはそのようなことはあまりないのだが、本当に実力のある人は、万が一、そのような状況に陥っても、瞬時に形成を立て直すだけの状況判断力と、演奏力がある、と。
これが出来てこそ、真のプロなんですね。
……このような話を伺って、なるほど、単に楽器の演奏「巧い」だけなのではなく、このような要素をも含めた上での「上手い」なのだなと納得した記憶があります。
私はボビー・ハッチャーソンの『ライヴ・アット・モントルー』の1曲目を聴くたびにこの話を思い出します。
演奏の序盤は、明らかに各演奏者たちは「離れて」いる。
ほんの一瞬ですが、それぞれの演奏者が認識しているテンポの違いや、微妙な拍のズレが確認することが出来ます。
幸い、ゆるやかなテンポとリラックスした曲ゆえ、それらの要素も「味」として良い雰囲気を醸し出しています。
しかし、演奏の中盤からはしっかりとまとまり、もう2曲目からは、ハッチャーソンを始めとして、フロントのウディ・ショウやリズムセクションがビシッ!とまとまり迫力のある演奏を展開します。
そして、3曲目、4曲目と進むにつれて、どんどん演奏のまとまりと密度が高くなっていくところが面白いですね。
トランペットのウディ・ショウがまだ若い頃の演奏ですが、瞬発力と、アンサンブルへの溶け込み方が素晴らしいです。
冒頭の「さ~て、始めるか」というリラックスした雰囲気から、ラストのクライマックスの汗水飛び散る(想像ですが、恐らく)音の熱さまで、演奏の温度が面白いように変わってゆく様が楽しめるアルバムなのです。
このような緩⇒密⇒昂の過程を演奏者とシンクロしながら味わえるのは、ライブ盤ならではのだいご味なんじゃないかと思います。
記:2014/04/25