ジャック・ジョンソン/マイルス・デイヴィス
私の師匠も大好きなアルバム
映画『ジャック・ジョンソン』のサントラだ。
1970年前後。当時、マイルス・デイヴィスはスタジオで実験も兼ねた膨大な吹き込みを残しており、この音源からプロデューサーのテオ・マセロが映画に相応しいものをセレクト、テープ編集を施したものがこのアルバムだ。
一言、カッコいい。
聴くたびに心躍る。
なにを隠そう、かつての私のベースの師匠、池田達也氏がもっとも好きなジャズのレコードはコレだと言っていた。
もう随分前のハナシなので、今では違うのかもしれないが……。
彼は、高校時代は、地元・佐賀でキャロルのコピーバンドのベーシストだった。本当はギターをやりたかったが、「じゃんけんに負けた」という理由でベーシストに。
そんな消極的な理由でベースをはじめた彼が、今やプロとして活躍している。
そのキッカケとなったのが、このアルバムのマイケル・ヘンダーソンのベースだったのだそうだ。
なんだ、このベース、カッコいい。
《ライト・オフ》のベースラインにノックアウトされたことが、本格的に
ベースをやろうと決心したキッカケだと言っていたことは鮮明に覚えてい
る。
そうそう、思い出した。
彼にベースを習い始めたころ、好きなウッドベース奏者は? エレキベース奏者は? 好きなアルバムは? などと色々と質問をしたんだった。
好きなウッドベース奏者は、ジョージ・ムラーツ。これを聴いて、私は「ムムッ!趣味が合う」と嬉しくなったものだ。
で、エレキベース奏者が、ジャコ・パストリアスかと思いきや、マイケル・ヘンダーソン。で、好きなアルバムも『ジャック・ジョンソン』。
当時の私は、『ビッチェズ・ブリュー』以降のマイルスはほとんど聴いたことがなかったので、急いで『ジャック・ジョンソン』を買い求め、マイケル・ヘンダーソンのベースに耳を傾けたものだ。
音楽もカッコいいが、それ以上にベースがカッコよかった。
そして、マイケル・ヘンダーソンは、エレキベースではモータウンのジェ
ームス・ジェマーソンとともに、「お手本にしたいベーシスト」の座にす
ぐに彼はおさまった。
第一印象は、ジャコよりもピン!ときた。
ま、ジェマーソンとともに、ヘンダーソンもモータウン育ち。アレサ・フランクリンのバックとか演ってたから。つまり、私が好きなベース奏者って、ソウルなベーシストばかりなのね、ってことに、今さらながら気が付いた(笑)。
ま、それはともかくとして、やっぱりこのアルバムは、ジャズファンはもちろんのこと、ロックファンにもオススメしたい。
力強いマイルスのトランペット。
ゴキゲンでノリノリなマイケル・ヘンダーソンのエレキベース。
前半のジョン・マクラフリンのザクッとしたカッティング攻撃、そして中盤の「あのフレーズ」の17回連続攻撃に痺れまくる。うん、この演奏は、マクラフリンなしでは成り立たなかった。
しかし、マクラフリンほど目立たないかもしれないが、じつは、隠れた「いなくてはならなかった人」として、演奏後半にオルガ
ンで思いっきり盛り上げるハービー・ハンコックの存在も欠かせない。
ビギャー!とエグイほどに空間を塗り染め、演奏を盛り上げるハンコックのオルガンは絶品だ。
2曲目の《イエスターナウ》は、テオ・マセロの複雑なテープ処理によって作られた、いわばサウンドコラージュとでも言うべき作品。
映画の映像の尺にあわせながら、スタジオでマイルスが残した音源をテープ編集して仕上げた内容だ。
私は映画を観てはいないが、映画を観なくても、十分に「サウンド作品」として楽しめ、最近の私は、前半よりも、むしろこちらのほうを楽しんでいるほど。
シンプルなヘンダーソンのリフレインに、気だるく絡むマイルスのラッパ。この前半の何かを暗示するような静寂な演奏が好きなのだ。
気付けば、めまぐるしく局面の変わってゆくサウンド。映像観たことなくとも、無心にこのサウンドの移り変わりに身を任せよう。
気持ち良いです。
ラストの短いアナウンスにも、聴くたびに熱いものが走る。
アーィム・ジャック・ジョンソン
ヘヴィウェイト・チャンピオン・オブ・ザ・ワールド……!
記:2008/02/27
album data
Jack Johnson (Columbia)
- Miles Davis
1.Right Off
2.Yesternow
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ss) #1
Bennie Maupin (bcl) #2
John McLaughlin (el-g)
Sonny Sharrock (el-g) #2
Herbie Hancock (org) #1
Chick Corea (el-p) #2
Michael Henderson (el-b) #1
Dave Holland (el-b) #2
Billy Cobham (ds) #1
Jack DeJohnette (ds) #2
1970/02/18 & 04/07