ジャズは本棚に在り ジャズ書と名盤/行方均

      2021/02/11


ジャズは本棚に在り ジャズ書と名盤

行方本発売!

『ジャズ批評』の連載書評コーナーの著者・雑木林進氏の正体は、音楽プロデューサーであり、評論家でもある行方均氏であることは、誰もが知るところです。

今回、行方氏が実名に統一して、過去に執筆た書評をまとめる形で一冊の本を出版されました。

『ジャズは本棚に在り ジャズ書と名盤』。

ジャズ本批評本でもあり、ジャズ本ガイド本でもあり、ジャズ本を下敷きにしたジャズ解説本でもあります。

憧れのプロデューサー

レコードプロデューサー・行方均氏は、ジャズ初心者の頃の私にとっては憧れの人物でした。

私が学生時代の頃、氏も私も、同じマンションに住んでいました。

もっともフロアも違うし、お互い同じマンションの住人ということは知っていても、ごくごくたまに同じエレベーターに乗り合わせた際には軽く会釈をする程度で、いわゆるご近所づきあいというものもまったくありませんでした。

ですので、互いが互いの素性を知らず、私が、「おっ、この人見たことある!」と気が付いたのは、随分後になってからのことです。

きっかけは、『スイング・ジャーナル』。

何年の何月号かは忘れましたが、ジャズのレコードプロデューサーの方と寺島靖国氏が対談をしているところに、行方氏がやってきて対談に参加という流れになる特集でした。
この誌面に掲載されていたマフラーを巻いた行方氏の写真を見て、初めて「あ、同じマンションに住んでいる人だ!」と気付いたわけです。

このマフラーがトレードマークの方は、東芝EMI(当時)のジャズのレコード(CD)のプロデューサーという、それはそれは物凄いポジションのお方だということを知った時は、まさかご近所にこのような素晴らしい方がお住まいだとはと驚きましたね。

そして、たしかこの号の『スウィング・ジャーナル』(以下SJ誌)だったと思うのですが、懸賞プレゼントのコーナーがあり、ここに行方氏が自作のレコードを1枚出品されていたのです。

以前、行方氏はブルーノートのベスト盤のレコードをプロモーション用の非売品として枚数限定でプレスしたそうで、その1枚をSJ誌の読プレ用に提供されていたのですね。

ジャケットのイラストは、行方氏の手書きイラストで、青いクレヨンで、たしかてんとう虫のイラストが描かれていたと思います。

欲しい!

しかし、抽選で当たる数は、たったの1枚!

当たるか?!

なんとしてでも当てたい!

そうだ、SJ誌の読者に女性は少ないはずだ。

であれば、妹に応募させよう!

当時の妹は、ミッフィーでお馴染みのディック・ブルーナの絵にはまっており、部屋には何冊ものブルーナ本がありました(私も誕生日にプレゼントをしていたので)。

これらの絵本を見るだけではなく、妹はブルーナ風のイラストもよく描いていたので、私は妹に、ブルーナテイスト漂ういかにも女の子が描いかのようなイラストを描いて欲しいとお願いしました。

そして、そのイラストには吹き出しをつけて、「わーい、当たっちゃった、嬉しいな、行方さんありがとう!」と書いておくれと付け加えました。

行方氏の青いクレヨンで描かれたイラストを見せて、青い色鉛筆で全体のイラストを描いてもらい、お礼にロッテのチョコパイのセットをあげて、そのハガキをポストに投函!

すると、見事に(?)懸賞が当選し、1~2ヶ月後には、レコードの小包みが届きました。

わが作戦成功せり!

レコードの内容は、リー・モーガンの《サイドワインダー》をはじめとしたブルーノートのヒットナンバーのおいしいところを紹介する内容で、どの曲もフェードアウトで終わっていましたが、ジャズ初心者にとっては充分かつ充実した編集だったと思います。

行方氏は、そんなこと全然知らなかったと思いますが、これが私の最初の行方さんの思い出です。

学級肌の紳士

それからかなりの月日が流れ、ブログでジャズのことをポツポツと書いていたら、なぜかTFMのミュージックバードで1時間のジャズ番組を持たせていただくことになりました。

ジャズマンやジャズファンをはじめとした様々なゲストにご登場いただくなか、行方氏にもレコードプロデューサーがブルーノートを語るという趣旨で2度ゲスト出演していただきました。

これは半分ジョークですが、私は日本のジャズ界のフィクサーは2人いると思っておりまして、一人はジャズ喫茶「いーぐる」の後藤雅洋マスター、もう一人こそがレコードプロデューサーの行方均氏だと勝手に思っておりまして、この2人に睨まれたら大変なことになると思っておりました(おります)。

ですので、以前、拙著『ビジネスマンのための(こっそり)ジャズ入門』の出版が決まった時も、「四ツ谷詣で」をして、ジャズ評論界の重鎮でおられる後藤マスターに報告をしたうえで執筆に取り掛かりましたし、時系列は逆になりますが、行方氏にゲスト出演いただく際も、ディレクター女子と共に行方氏にじかに会って出演依頼をするために「赤坂詣で(EMIミュージック・ジャパン詣で)」をしております。

学生の頃から、マンションのエレベーターにたまに同乗し、雑誌や本を通じて、その活躍ぶりを存じ上げていた行方氏と「近所の住人だった人」としてではなく、「ジャズのこと」でお会いする時は、かなり緊張しましたね。

応接室にあらわれた行方氏は、首にはトレードマークのマフラーをまかれており、そのお姿は、まさに私が20年近く思い描いていた行方氏のイメージそのままの姿で、ご本人にお会いした時は、憧れのミュージシャンと対面した時のような感動を覚えたものです。

そして、2度、「ブルーノート1500番台」というお題目で行方氏に番組にご出演いただきましたが、本来であれば、私は司会進行をしなければいけないの立場なのですが、いつの間にか番組のイニシアチヴは行方さんに綺麗に移行しており、まるで私が行方さんに教えを受けているような構図になっていました。

さながら、デキソコナイのぼんくら学生が、穏やかな大学教授に個人講義を受けているような構図でしたね。

その時の行方氏の落ち着いたトークは、まるで学者そのもの。
そして、言葉の端々からは、ジャズマンや曲に対しての敬意が滲みでており、ミーハー気分でジャズが好きな私は大いに襟を正す思いでした。

これまで様々なジャズ好きの方には会ってきましたが、鋭い人、エネルギッシュな人、思索深げな人、ユーモラスな人、文学者チックな人、怪しい人(笑)など、様々なタイプのジャズファンがいらっしゃいましたが、行方さんのような学究肌タイプな方は初めてでした。

そんな学究肌の行方氏が、ジャズ本(音楽本)の書評を執筆されるのは、私にとってはごくごく自然な流れだと私は思っています。

そして、『Jazz Japan』や『ジャズ批評』に掲載された書評がセレクトされ、1冊の本にまとまったのが、『ジャズは本棚に在り ジャズ書と名盤』なのです。

完全無欠の行方本

ただし、これは単なるジャズブックガイドではありません。

ある意味「ジャズブックガイド」を装った、れっきとした行方本という側面もあります。

ここで取り上げられた本や雑誌のレビューは、「本(雑誌)」というテーマをもとに、しっかりとアドリブパート(ソロコーナー)では、ご自身の実績、嗜好もさりげなくアピールされていますから。

そう、まさにこのレビューで私が行方氏の本の紹介よりも自分のことばっかりに文字数を費やしているかのように(笑)。

したがって、本書で取り上げられている本の紹介を読み進めていくうちに、行方氏の人柄、嗜好、実績、ジャズ観などがありありと浮かび上がってくるのです。

そういった意味では、本書は単なるジャズのブックガイドにあらず!

ジャズプロデューサー・行方均という人物を知ることが出来る貴重な一冊でもあるのです。

しかし、国内で発売されているジャズ本の大方は読んだつもりでいた私ですが、まだまだ甘いですね。

取り上げられている本で読んだことがある本は、3分の1程度でした。

まだまだ、ジャズ本の鉱脈は深いと思いましたね。

個人的には、バディ・ボールデン関連の書籍や、『The Lady Who Shot Lee Morgan』を読んでみたいと思いました。

ドキュメンタリー映画『I CALLED HIM MORGAN 私が殺したリー・モーガン』の原作本『The Lady Who Shot Lee Morgan』は洋書だけれども、テーマがあまりにそそりすぎるので(だって、あのリー・モーガンを射殺した女性の証言をもとにつづられた本なんですよ)、久々に辞書を引きながらチャレンジするのも悪くないかなと思わせてくれます。

もちろん、紹介されている本は、ジャズ本のみの紹介にあらず。

ケルアックの『オン・ザ・ロード』が紹介されているのにはニヤリとしましたし、なんとピアニスト・大西順子がモデルとなっている推理小説もあったことなんて知らんかっとってんちんとんしゃん(S.E.T.風に)。

その本はバリー・アイスラーの『雨の牙』。

今度読んでみようかな。

このような、「へぇ~!知らなかった」という本もたくさん紹介されており、穴だらけの私の「ジャズ脳味噌」を埋めてくれた貴重な一冊でもありました。

記:2018/11/10

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