ジャズ・ムード/ユセフ・ラティーフ

   

異国情緒

ユセフ・ラティーフに対して、近寄りがたいイメージを抱いているジャズファンも少なくないのではないだろうか。

その理由のひとつが、マルチリード奏者である彼が奏でるテナーサックス以外の楽器の音色、すなわちオーボエやフルートなどの楽器の音色とフレーズにあるのかもしれない。

中近東を思わせるテイストからは、ストレートアヘッドなジャズも演奏するが、エスニックなアプローチも守備範囲にあり、それが彼のイメージをオーソドックスなジャズを好むファンからは「怪しい人」というイメージを抱かせ遠ざけているのかもしれない。

そして、このアルバム『ジャズ・ムード』のジャケ写に並ぶ民族楽器からも、タイトルには「ジャズ」という言葉が冠されているにもかかわらず、なにやら異国情緒漂いまくる怪しさが漂っている。

カーティス・フラー

とはいえ、このアルバムに収録されているすべての曲がエスニックテイストなわけではない。

たとえば、2曲目の《ユセフズ・ムード》のような典型的なツーファイヴ・ブルース(モダンジャズにおける典型的なコード進行のブルース)のような演奏もあるにはあるが、冒頭の《メタファー》のイントロのなにやらモロッコあたりの怪しげな宗教儀式のような始まり方は、タイトルから「ジャズ」を期待して聴き始めた人の度肝を抜くに十分だ。
とはいえ、イントロの「儀式」は1分も続くことなく、すぐにミンガス的なメランコリックさただよう重たいアンサンブルが始まるのだが。

メランコリックで重たいムードがなかなかな味わいなのだが、この重たさはトロンボーンのカーティス・フラーの貢献度が高い。

アドリブ奏者としてもオイシいフレーズを連発するフラーだが、さすが「ハモリ」の楽器でもあるトロンボーンを操る第一人者ということもあってか、主旋律を上手に彩っている。

この重たさを軽減するかのようにラティーフはフルートを吹いている。

心地よいリズム

個人的には《モーニング》が、このアルバムのベストと感じている。

バックのなにやらこそばゆいリズムが心地よい。

沈鬱さをたたえたうえで、演奏が淡々と進んでゆく。
注意深く、少しずつ情感が注入されてゆき、聴き手も少しずつエスニックテイスト漂うリズムに引き寄せられてゆく。

9分ちょっとの比較的長めな演奏だが、もっと続いて欲しいと思わせるほどのまるでトランス状態に誘うかのような心地よいリズムの反復と、巧みにリズムに薄化粧をほどこすラティーフのリズムに対しての距離感が心地よい。

ダグ・ワトキンスがベースではなくパーカッションで参加しているのも面白い。

タイトルがモーニングだからといって、朝からこれを聴いてしまうと落ち込んでしまうことは確実だが、午後や夜など、昂った気持ちを鎮静化させ、思索に耽るにはうってつけのナンバーといえる。

さすが、コルトレーンにも東洋思想の面で多大なる影響を与えたラティーフならではの手腕だ。

中途半端にモダンジャズ的な演奏を混入せずに、このようなテイストのナンバーだけで統一してくれれば良かったのに、と思わせるアルバムが、ラティーフの隠れ名盤『ジャズ・ムード』なのだ。

記:2016/11/04

album data

JAZZ MOOD (Savoy)
- Yusef Lateef

1.Metaphor
2.Yusef's Mood
3.The Beginning
4.Morning
5.Blues in Space

Yusef Lateef (ts,fl,arghul,scraper)
Curtis Fuller (tb,tambourine)
Hugh Lawson (p)
Ernie Farrow (b,rabat)
Louis Hayes (ds)
Doug Watkins (per,finger cymbals)

1957/04/09

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