地味にスゴイ!テナーサックス奏者 ハンク・モブレイ
2018/08/16
地味にスゴイ!
現在放映中の石原さとみが主演のドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』が面白いので、毎週欠かさず見ているのですが、身の周りにも凄い人は大勢いると思います。
第一印象が強烈な人もいるけれども、その逆に、初対面の印象は地味かもしれないけれども、接しているうちに、だんだんとその人の良さがわかってきて、気づけば、何気にスゴいんじゃないか、この人!みたいな。
ジャズマンにも地味にスゴい人は大勢いると思います。
例えば、ハンク・モブレイ。
彼なんか、まさに「地味にスゴイ!」ジャズマンの典型なのではないでしょうか。
いつか王子様が
そのことについては、拙著『ビジネスマンのための(こっそり)ジャズ入門』にも詳しく書いているので重複は避けますが、
この本には文字数の関係で書かなかった「実例」を書いてみます。
それはマイルスのアルバム。
最初からインパクトのコルトレーンと、あとからジワリとくるモブレイが共演した、マイルス・デイヴィスがリーダーの『いつか王子様が』の《いつか王子様が》です。
とにかくコルトレーンのアドリブはインパクトの塊です。
「シーツ・オブ・サウンズ」で、あれだけ猛然と吹かれちゃったら、誰だってタジタジになってしまう、それほどの勢いなのです。
ソロの順番はモブレイの方が先なのですが、モブレイが丁寧に積み上げてきた演奏のテイストを全部コルトレーンという暴風雨が根こそぎ持っていってしまうって感じ。
だから、「そういえば、モブレイもこの曲でテナーを吹いていたなぁ。どんなんだったっけ?となってしまうんですね。」
ですが、それはコルトレーンが優れていて、モブレイが劣っているからというわけではないんです。
ソロオーダーが先発で、コルトレーンがあまりに凄いアドリブを吹いてしまったがために印象が薄れてしまっているだけなんです。
印象が薄いことと、実力がないことは無関係ですからね。
ですので、もう一回最初から聞き直す。
するとどうでしょう。
柔らかなトーンで優しげなメロディを奏でるモブレイのテナー、いいな~と思いませんか?
例えば、営業マンでいえば、デカい声の人、雄弁に話す人の方が初対面のインパクトは強いです。反対に物腰穏やかな人、立ち居振る舞いがソツない人は、初対面ではあまり印象には残りません。
しかし、会う回数を重ねていくたびに、後者のタイプの人の良さのようなものも、少しずつ分かってくるのではないでしょうか?
コルトレーンは前者、モブレイは後者のタイプのテナー吹きなんですね。
どちらが優秀で、どちらが劣っているか。そう簡単に比較の遡上に載せられないはずなのです。
そういった目線(耳線?)で、再度、マイルス・デイヴィスの『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』を聴いてみましょう。
地味にスゴい彼の良さがわかるはずです。
記:2016/11/02