日食~スタンダード・コルトレーン
text:高良俊礼(Sounds Pal)
奄美 皆既日食
2008年に皆既日食があった。
この、世にも珍しい天体現象が奄美で観測できるということで、期間中は本土や海外からも大勢の観光客が訪れていた。
大きな登山リュックのような入れ物に本格的な装備を満載した“日食ウォッチャー”から、洒落た軽装を身に纏い、連れだって街を散策する“観光派”まで、老若男女入り乱れ、人種や国籍も多彩な人々が行き交う名瀬市街地は、異様な熱気が溢れていた。
シマの人達はといえば、家族や友達と一緒にめいめい好きなイベントに行ったり、仕事を休んで日食観察に出かけたり、仕事や家事の合間に外に出て、息抜きがてら空を見上げたり、何だか微笑ましい。
私も仕事中に外に出て空を見上げていた。
曇り空にぼんやり浮かぶ太陽が欠ける様を肉眼で確認できたのは、運が良かったと言うべきか。何となく外に出てみて、近所の人達と世間話に興じながら見る日食も、なかなかオツなもんだ。
スタンダード・コルトレーン
太陽が月に隠れている間、お店でコルトレーンをかけていた。
別に狙った訳ではなく、日食の日がたまたま「大コルトレーン祭」という、毎年恒例のコルトレーン特集と重なっただけだったが、モノクロの背景から浮き出たコルトレーンの顔と好対照を成す、上部オレンジのアンダーラインが美しくあしらわれた、とびきりお渋いジャケットと日食のイメージとが何となく重なり、試しにCDを再生させてみると、やや辛口なコルトレーンのテナーの音と、柔らかなウィルバー・ハーディンのトランペットの音が、スタンダード曲の美しいメロディの上で仲良く唄い合っている。
コルトレーン バラード
午前11時頃。日が徐々に欠け始め、辺りが薄暗くなってくる頃には、コルトレーンの音が一層神秘的に響いた。
夜の暗闇と似てるようで違う、日食の不思議な闇の中を優雅に泳ぐ《ドント・テイク・ユア・ラヴ・フロム・ミー》。常日頃「コルトレーンのバラードはいいなぁ」と思っていたり、感極まって「いいなぁ・・・」とポソッとつぶやいたりもするが、この時ばかりは何だか違った。
「染みる」という感覚が、いつも何気なく感じているそれよりも、やけにリアルで、心地よい“重さ”があった。不思議な天体現象がもたらした一瞬の奇跡かも知れなかったし、単なる思い込みのせいかもしれない。
どっちにしろ、何十年かに一度の貴重な皆既日食が、コルトレーンの音楽が持つ不思議なカッコ良さ、奥深さに改めて触れるきっかけになった。
さて、今日もじっくりコルトレーンを聴こうか。
記:2014/08/21
text by
●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル)
※『奄美新聞』2008年7月25日「音庫知新かわら版」記事を加筆修正