空中浮遊/近藤等則&チベタン・ブルー・エアー・リキッド・バンド
軽やかにねじれたトランペットの心地よさ
近藤等則の『空中浮遊』の全体を貫く「ほにゃりら」さ加減がとても好きだ。
曖昧な輪郭を描くトランペットと、それを支えるリズム隊の対比の妙。
この味わい、このニュアンスを出すのは、アメリカやヨーロッパのジャズマンには無理だろう。
もっと、骨太でガシっとしたものになってしまいそうだ。
もちろん、このアルバムのリズムの骨格が「ふにゃふにゃ」としているわけではない。
むしろ戦略的に、あえて「芯」を抜いた独自のテイストを構築することに成功しているといえる。
スポンジのような柔らかさを常にたたえた不思議な感触の演奏は、よく考えてみれば、アメリカやヨーロッパどころか、日本にも似たようなテイストのものはないことに気付く。
つまり、この『空中浮遊』がもつ音世界は、このアルバムでは唯一無二のものなのだ。
まずは、リーアーの近藤のトランペットがユニークだ。
同じミュートやワウをかましたトランペットでも、近藤等則のトーンは、マイルスのそれとは対極の位置で空中を漂っている。
旋律も「お猿のかご屋」を彷彿とさせる和風メロディばかりだが、なんだ「ほにゃりら」なトランペットで奏でられると、時代性や地域性が希薄になってくるので、面白い。
エフェクトをかけたベースの音色も「ズン!」じゃなくて「ぼにっ!」とした感じ。
「そこに存在している低音」ではなく、「手で触れるような低音」のような感触だ。
そういえば、このベーシストの名前、ベーシストなのに、ロドニー・ドラマーっていうんですね。…どうでも良いことだけど。
このベース、何の予備知識無しに聴いたときは、ビル・ラズウェルかな?と、一瞬思ったが、なかなか良いセンスしていると思う。
渡辺香津美のギターのしなやかなバッキングも、とても良い効果を出しており、近藤のトランペットの音色と合わさると、文字通り、気持ちの良い「浮遊」感を味わえる。
とにもかくにも、悪い意味じゃなくて、何も考えずに気楽に音楽を聴きたいとき、それも単なるBGM的なのじゃ飽き足らず、内容的にも充実したものを聴きたいときには、近藤等則の『空中浮遊』が良い。
記:2002/05/23
album data
空中浮遊 (TDK! Records)
近藤等則&チベタン・ブルー・エアー・リキッド・バンド
1.楽々々
2.七拍子
3.軽快足踏組曲
4.瀬戸内Blue
5.若い娘のハネ踊り
6.空のワレ目
7.エライコッチャ
Tibetan Blue Air Liquid Band
近藤等則 (tp)
渡辺香津美 (g)
Rodney Drummer (b)
豊住芳三郎 (ds)
1983/06/19-23