カッコいいレスター・ヤング
2019/09/03
Lester Young Trio (w/Nat King Cole, Buddy Rich) by Lester Young (1994-05-03)
カウント・ベイシーの映像
先日久々に『カウント・ベイシー/スイングの心象』というタイトルの映像を観ていた。
これ、まだ、私がカウント・ベイシーの「カ」の字も知らない頃、つまり、ジャズに関しての予備知識がまったくない時期に、渋谷のジャズ喫茶「スイング」でよくかかっていた映像で、
「カ」の字も知らない私でも、それなりに、楽しめたドキュメント映像だった。
「やつはピアノ一音でスイングさせることが出来た」という、たった一言からも、「ピアノ、たった一音で?」「スイングする?」という素朴な疑問が生じるわけだが、たとえば、読書を例にたとえれば、たとえ知らない言葉があっても無視して強引に読み進めていくうちになんとなくぼんやりと意味が分かってくるのと同じで、このドキュメントの中の映像を見ているうちに、「ははぁ、スイングとは、要するにこの映像に出てくるピアノを弾いたり指揮をとったりしている人(ベイシー)の音楽のようなことだと思えば間違いなさそうだな」と認識した記憶がある。
今でも、その認識は間違っているとは思っていない。
レスター・ヤングの映像
『スウィングの心象』というタイトルの映像は、カウント・ベイシーのプロフィールとともに、圧倒的にノリノリなビッグバンドの演奏も楽しめる映像なのだが、後半に登場する、レスター・ヤングの映像がめちゃくちゃかっこいいのですよ。
なぜかここの箇所は、「スイング」で観たっけなぁ?と記憶からすっぽり抜け落ちていた箇所だった。
不思議と見た記憶がないのだ。
だからこそ、レスターが椅子に座り、ポークパイハットをかぶり、テナーと首を横に傾けて、めちゃくちゃメロウなトーンで心地よい眠気をいざなうほどのプレイをしている映像は、新鮮かつ、「カッコイイ~!!」だった。
もしかしたら、当時の私がレスターの姿の記憶がスッポリ抜け落ちてしまっていたのは、ジャズをよく知らずに観ていたからということもある。
「ジャズマンってみんな、こんな感じでカッコイイものだろう」と、当たり前の光景を見ている気持ちで鑑賞していたからなのかもしれない。
しかし、色々なジャズを聴いていくうちに、すべてのジャズマンがレスターのように粋でもダンディじゃないという当たり前の事実を知るようになり、だからこそ最近になって観返すと、レスターのダンディさ、粋さを再認識して、衝撃を受けたのかもしれない。
ビリー・ホリデイ
私が好きなレスターの映像はもう1つある。
ビリー・ホリデイのドキュメント映像、『ビリー・ホリデイの真実』だ。
これは、昔から何度も何度も繰り返し見ているが、何度観てもよい。
特に、コール・マンホーキンス、ロイ・エルドリッジ、ジェリー・マリガンなど、そうそうたる管楽器奏者たちとブルースをジャムセッションしている映像が何度観てもシビレる。
実力者ばかりが集まるジャムセッションの中でも、ひときわ個性を放っていたのが、レスター・ヤングだった。
レスターがソフトでメロウなトーンで登場するシーンは、いつ見ても素晴らしい。
そんなレスターを、楽しげに愛しげに見つめるビリー・ホリデイの表情も良い。
レスター・ヤングの名を知らぬジャズファンは少ないと思うが、敬して遠ざけられるミュージシャンの一人ではないかと思う。
せいぜい、『プレス・アンド・テディ』を1枚もっている程度で、「たまに聴くと、いいですね~」ぐらいのレベルどまりなんじゃないかと思う。
あとは、キーノートなどの音源は、同じ演奏が何テイクも収録されていたり、音もそんなによくなかったりと、なんとなく積極的に聴いてみようという気がおきない気持ちも分からないでもない。
しかし、映像からレスターに入ると、また違うんじゃないかと思う。
音だけだといまひとつピンとこなくても、姿かたちはダンディな人なんだぁと思えば、しめたもの。
なんとなく古色蒼然としたイメージがあったかもしれないレスターの音楽が、ぐっと力強い輪郭を持って近づいてくるに違いない。
いや、ほんと、食わず嫌いが多いんじゃないかと思うんですよね、レスターは。
繰り返すけど、レスターは映像から入れば、ほとんどの人が虜になると思うよ。
レスターを置いていないジャズ喫茶
某町の某ジャズ喫茶の某マスターは、以前、お客からレスター・ヤングをリクエストされたそうだ。
そして、「ごめんなさい、うちにはレスター、1枚も無いんですよぉ、何せ、“趣味でやってる店”なんで」とお断りをいれた、という話を聞いた。
べつに、趣味でやっていようが、やっていまいが、なければないで、胸を張って「残念ながらうちには置いてません」と言えばイイだけの話だと私などは思うのだが、“趣味でやってるから”と、わざわざ断りをいれるところに、なーんとなく、そのマスターの甘えとういか、「(趣味でやっている。だから、)あんまりイジめないでね、突っ込まないでね」と、あらかじめマニアックな客に張っている予防線も感じられ、なんだかねぇと思うのは私だけだろうか。
そのくせ、しばらくは、「どうせうちにはレスターないんだから。趣味でやってるんだし」とコトあるごとに「どうせ」「どうせ」を連発して自虐っていたから、相当気にはなっていたのだろう。
「そんなに客からレスター・ヤングをリクエストされたことがショックなんだったら、『プレス・アンド・テディ』の1枚ぐらい置いておけばいいのに。よかったら貸しますよ?」と申し出たのだが、「いや、いい!うちは、どうせ趣味でやってる店だから!」と逆ギレされる始末。
リクエストされてなかったアルバムを改めてそろえるのがシャクなのか、そのとき客に何か言われたのかは分からないが、しばらくは、レスターのことでブスブスしてマシタ(笑)。
幅広いジャズのこと、どの店にだって、守備範囲や、得意とする分野があるんだから、べつにモダン以前のスタイルのものは置いてません、と言えば、それでいいと思うんだけどなぁ。
でも、そういうのもイヤみたい。
彼はヘンなところに意固地になるところがあるので、そこらへんのコダワリは私には良く理解できませんが、とにもかくにも、いま一番レスターの映像を見せたい人は、彼です(笑)。
スマートなレスターを観れば、いかに自分が小さくてどうでもいいことに拘っているのかが良く分かることでしょう(笑)。
……いや、分からないかもね(笑)。
でも、映像がダメでも、せめて音源だけでも聴いて欲しいな~。
たった4曲でいいから。
そう、たった4曲しか入っていないバディ・リッチとナット・キング・コールとのトリオ演奏、『レスター・ヤング・トリオ』を。
肩ひじ張らず、カッコも付けず、空気を吸うぐらいの気分で気軽に再生するだけで、何の抵抗もなく心の奥にスッと入り込んできて、ああ「ジャズだなぁ、いいなぁ」と自然に唇が呟いているに違いない音源なのだから。
記:2007/11/07