リンボ・カーニヴァル/デイヴ・パイク

   

ラテンの乗りの「快楽打」

私は、小学校のときの一時期、ヤマハ音楽教室のジュニア科のアンサンブルコースで鉄琴(ヴィブラフォン)や、木琴(マリンバ)を叩いていたことがあったので、このような「メロディ打楽器」にはひときわ強い思い入れがある。

私にとっての、「メロディ打楽器」は、メロディが前面に出るか、打鍵のほうが前面に出るかで、同じ楽器にたいしても、まったく見方が変わる。

たとえば、ミルト・ジャクソンなんかは、私にとっては、完全に「メロディ打楽器」。

気持ちの良い旋律が、絶妙に気持ちの良いタイミングで打鍵されてゆく。

涼やかなメロディラインが、アタマの中をコロコロと転がるのは、音の配列とタイミングの巧みさによるものだが、彼の叩き出すメロディが印象に残っているのは、やはり、メロディラインを心地よく感じているからなのだろう。

一方、「打」のほうだと、私にとっては、ボビー・ハッチャーソンかな。

もちろん、曲やアルバムによっては、美しいメロディを奏でている演奏も多いが、エリック・ドルフィーの『アウト・トゥ・ランチ』の強烈な打鍵、「打楽器」としての特性を生かした『ウン・ポコ・ローコ』のソロを聴くと、ハッチャーソンという人は、「打」の特性を熟知し、とても上手に使っているんだな、と思う。

ハッチャーソンの「打」が非常に鋭角的で攻撃的だが、私の頭の中には、もう一つの「打」の要素が分類される。

それは、ラテン乗りの「快楽打」だ。

筆頭は、カル・ジェイダーなのだが、もう一人、忘れてはならない人が、そう、デイヴ・パイク。

ジェイダーのように、マンボ、ラテン色の強い人ではないが、彼のたたき出す「快楽打」は、たとえば、『リンボ・カーニヴァル』のようなカリプソ・ナンバーにトライしたアルバムを聴くと、もうこれは和みの境地。

1962年、真冬のニューヨークで録音された演奏にもかかわらず、このどうしようもないほどの南国感はどうだ。この音源を聴いて、トロピカルカクテルのグラスにささっているパイナップルを思い浮かべない人は皆無だろう。

ソニー・ロリンズの《セント・トーマス》や、チャーリー・パーカーの《マイ・リトル・スウェード・シューズ》など、ジャズファンにはお馴染みのナンバーも収録されており、心うきうき楽しい内容。

パーソネルも良い。

ピアノがトミー・フラナガン、ギターにジミー・レイニーが参加。

また、曲によっては、ベースが幾何学的なラインを奏でるジョージ・デュヴィヴィエ。

つまり、単なる快楽主義をダラダラ垂れ流す演奏ではなく、締めるところはピシッと締めるベテランにより、脇をしっかりと固められているのだ。

そこがいい。

デイヴ・パイクといえば、名盤『パイクス・ピーク』が有名だし、彼の代表作ではあるが、この録音の後にレコーディングされた、快楽的サウンドのなかにもストイックな生真面目さも漂う、絶妙な肌触りのサウンドは、脇を固めるジャズマンたちのお陰だろう。

ちなみに、プロデューサーはテオ・マセロで、録音技師は、ルディ・ヴァン・ゲルダー。

けっこう豪華な面子が、この仕事に関わっていたのだ。

何度も鑑賞に耐えられる内容なのは、きっと、その道のプロたちによって生み出された緊張感のともなうジャズの要素が要所要所に息づいているからなのだろう。

記:2009/12/19

album data

LIMBO CARNIVAL (New Jazz)
- Dave Pike

1.La Bamba
2.My Little Suede Shoes
3.Matilda
4.Mambo Bounce
5.Limbo Rock
6.Calypso Blues
7.Cattin' Latin
8.St. Thomas
9.Jamaica Farewell

Dave Pike (vib,marimba)
Leo Wright (fl,as)
Jimmy Raney (g)
George Duvivier (b)
Ahmed Abdul-Malik (b)
William Correo (ds)
Ray Baretto (conga)

1962/12/12

 - ジャズ