A.R.C./チック・コリア

   

チックお気に入りのナンバー

《ネフェルティティ》という不思議な曲は、ウェイン・ショーターがマイルスグループ在団時に作曲したユニークなナンバーだ。

同曲をタイトルにしたアルバムも出ており、「アドリブのないジャズ」として引き合いに出されることも多い。

ネフェルティティ+4
ネフェルティティ/マイルス・デイヴィス

ショーター作曲のこの曲のことを、チックはいたく気に入っていたようで、マイルス・バンド在団時に親分マイルスに「この曲やろうよ」と進言したのはチックだったと言われているし、ブルーノートの『ザ・ソング・オブ・シンギング』や、ECMレーベルの『A.R.C.』でもチックは《ネフェルティティ》を演奏している。

軽やかで明晰なノリとピアノを弾くチックが、ショーター作のミステリアスでどちらかというとドロドロした演奏のほうが似合いそうな曲を気にいっていたというのも面白い。

チック流化粧直し

マイルス、ショーター、ハンコック、トニー、ロンのクインテットによる、幽玄かつミステリアスな印象の強い《ネフェルティティ》は、チックが演奏した瞬間、チックの音楽としか言いようがないほどの様変わりをする。

しかし、この曲のムードは一切破壊せずに、チックなりのミステリアスさが演出される。

ピン!と張り詰めたテンション高いミステリアスさ。
寸分の狂いもなく構築されたミステリアスなオブジェ。

ミステリアスさに理知的な要素が加わり、なんともいえない独特のムードとなって《ネフェルティティ》は化粧直しをされる。

『ザ・ソング・オブ・シンギング』のピリッとしたピアノと、蠢くデイヴ・ホランドのベースも捨てがたいが、個人的には、『ARC』のバージョンのほうが好きだ。

ザ・ソング・オブ・シンギング
ザ・ソング・オブ・シンギング

得体の知れぬエネルギーと集中力がピアノ、ベース、ドラムスに宿り、崩壊しそうで崩壊しない強度を最後まで保ち、直進、蛇行を繰り返す演奏が最高。

私はマイルス=ショーターバージョンを先に聴いてから、『A.R.C.』のバージョンを聴いたが、先に『A.R.C.』のバージョンを聴いてから、マイルス=ショーターのオリジナルバージョンを聴いた人はどういう印象を持つのだろうか?

「怪しい」という形容は一致しているかもしれないが、「怪しい」の質がまったく違う両者の演奏は、しかしながらどちらも等しく《ネフェルティティ》なのだ。

アルバムの代表曲、そして冒頭からこのアルバムのイメージを決定づける《ネフェルティティ》。
この雰囲気を上手に引きずり、『A.R.C.』は展開してゆく。

過激で知的で、そしてスマートさとドロドロさが絶妙なバランスで共存しているチックを聴くなら、なにはさておいても『A.R.C.』だろう。

記:1999/05/10

album data

A.R.C. (ECM)
- Chick Corea

1.Nefertiti
2.Ballad for Tillie
3.A.R.C.
4.Vedana
5.Thanatos
6.Games

Chick Corea (p)
David Holland (b)
Barry Altschul (per)

1971/01/11, 12 & 13

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