ニューヨーク・シーン/ジョージ・ウォーリントン

   

良いのに何故か忘れる

ジョージ・ウォーリントンって、どうも忘れがちなピアニストの1人だ。

黒人顔負けの、バリバリな白人ハードバッパーで、その熱くドライブするプレイは、思わず拳を握って「お~っ!」と興奮させるものがあるというのに。

マクリーン、フィル・ウッズといったベテランサックス奏者を従えて、目が覚めんばかりの演奏を繰り広げているというのに、どうも、私にとっては、意識の外に置き去られがちな、「ゴメン!申し訳ない!素晴らしいのに忘れがち!」な位置付けのピアニストなんだよね。

たまに思い出したように聴くと、とても良いのに、なんでなんろうね?

聴かずに死ねるか!

ま、個人的なことはどうでもいんだけれども、彼の代表作の『カフェ・ボヘミア』もいいけれども、この『ニューヨーク』もいいです。

フィル・ウッズも、ドナルド・バードの力演も輝かしい。勢いに溢れている。

バリバリと疾走を繰り広げるウォーリントンのピアノも、もちろん光彩を放っている。

良い内容なはずなんだけれども、うーん、ジャケットが地味だからかな?

最近、1100円というビックリ廉価で再発されているのをCDショップ店頭で発見して、改めて「あ、そういえば、これ持っているのに、持っていること忘れてたよ!」となった。

なんだか最近、こういうことって多い。

とくに、最近、廉価で再発されるアルバムって多いじゃない?

そのリストを見るたびに、ああ、なんでこんなにいいアルバム、俺っていっぱい持っているのに、なんで最近聴いてないのだろう、持っていることすら忘れているものも多いじゃないか、俺のバカバカバカ!と1人で勝手に自分を責め、勝手に落ち込んで酒を飲むという悪循環。

「あ、聴いてないや!」と気づいたアルバムは面倒でも、思い出した瞬間にメモを取って、家に帰ったら耳を通すようにしよう。

そうしないと、ほんと、宝の持ち腐れになっちまう。

手に入らず、聴かずじまいで死ぬならともかく、持っているのに、聴いた記憶もおぼろな状態で死ぬのはマヌケだ。

「聴かずに死ねるか!」だよね。

グラデュエーション・デイ

このアルバムの中で、個人的に興味深く聴いているナンバーを1曲だけ紹介することにしよう。

《グラデュエーション・デイ》。

このナンバーはピアノトリオでの演奏。

勢いのある演奏ももちろん良いのだけれども、《グラデュエーション・デイ》のような、しっとりナンバーにこそピアニスト、ウォーリントンの真価を見る思いもする。

ミディアム・スローだからこそ、そしてシンプルなリズムセクションのバッキングだからこそ、ウォリントンというピアニストの出自や訛りがクッキリと浮き出てくるんだよね。

和音を奏でるときの、微妙なポロロン。
一度に同時に鍵盤を押さない。

クラシック的な指使い。

そういえば、エンディングでドラムスとベースが抜けた後の締めくくり処理もクラシック的だ。

そうかと思えば、演奏後半のテーマに戻る少し前にチラリとあらわれる後期パウエル的合いの手(装飾フレーズ)。

なかなか、様々な要素を勉強し、吸収し、さり気なく自己の表現の中に取り入れているのだなということが分かる。

《ディス・モーニン》では、マイナーブルースをファンキー調なピアノで奏でていながらも、《グラデュエーション・デイ》では、シレっと淡白なピアノを弾いているという、そのギャップと表現レンジの幅広さが面白い。

しかも、露骨にスタイルやテイストを変えているわけでもなく、ウォーリントン的なテイストはきちんとキープしているところが、さすが。

曲や演奏の良さ以前に、《グラデュエーション・デイ》は、ウォーリントンの本音、本質の部分が垣間見えるナンバーだと思う。

もっと聴こうと思う。
アルバムの存在を忘れずに。

記:2007/10/01

album data

NEW YORK SCENE (Prestige New Jazz)
- George Wallington

1.In Sarah
2.Up Tohickon Creek
3.Graduation Day
4.Indian Summer
5.'Dis Mornin'
6.Sol's Ollie

George Wallington (p)
Donald Byrd (tp)
Phil Woods (as)
Teddy Kotick (b)
Nick Stabulas (ds)

1957/03/01

 - ジャズ