ソング・フォー・マイ・ファーザー/ホレス・シルヴァー

      2022/11/07

曲で聴くアルバム

アーシーな感覚と、熱くあおり立てるようなピアノを弾く、ファンキー・ピアノの筆頭格、ホレス・シルバー。

フロントを煽りまくるピアノも独特だが、どちらかというとこのアルバムは「プレイ」よりも「曲」にスポットを当てて聴くアルバムだと思う。

そして、後述するが、このアルバムは曲と曲の流れも非常に素晴らしい。

タイトル曲

まずは、《ソング・フォー・マイ・ファーザー》。

この曲は、タイトルは知らなくとも、この印象深く、微妙かつ美妙なエキゾチックさを漂わせたメロディは、聴き覚えのある方も多いことだろう。

ジャケットに映る葉巻を加えたおじさんは、言うまでもなくシルバーのお父さん。とってもいい表情をしている。

ホレス・シルヴァーは、ピアニストのみならず、作曲者としても数々の名曲を残しており、この曲もまさにその中の一曲と言えるだろう。

ポルトガルの血を引く彼の血筋のなせるワザなのだろうか、妙に胸が騒ぐ上に異国情緒を旋律に感じるのは私だけではあるまい。

彼の書く曲には、シンプルながら印象に残るメロディのものが多い。
しかし、個人的な感想だが、シルヴァーのペンによる曲の多くは、印象的なメロディながらもキャッチーさが前面に出過ぎたものもあり、この分かりやすさが逆に軽い印象を受けてしまうものもなきにしもあらずだ。

しかし、《ソング・フォー・マイ・ファーザー》の場合は、ホーンのアレンジ、アンサンブルが秀逸なこともあり、単に分かりやすくキャッチーな軽い内容では終わらず、じわりと深いペーソスが滲み出る内容に仕上がっているところが、長らくファンに聴き継がれ愛されてきた所以だろう。

彼自身もこの曲を気に入っているようで、後年は歌を加えたバージョンでリメイクをしている。

名曲揃い

もっとも、このアルバムは、タイトル曲があまりにも有名過ぎて、ほかの曲が語られることがあまりないようだが、私は《ザ・ネイティヴス・アー・レストレス・トゥナイト》という曲が、いかにもシルヴァーらしくて気に行っている。

ミディアムテンポでどっしりと突き進んでゆく《ソング・フォー・マイ・ファーザー》が終了した後に、またしてもエキゾチックなメロディが急速調なテンポで開始される流れが最高。

じつは、ジャズ的エキサイティングさはタイトル曲よりもこちらのほうが数段上で、カーメル・ジョーンズのトランペットも、ジョー・ヘンダーソンのテナーサックスもエキサイティングなアドリブを繰り広げている。

この曲が終わると、今度は中近東の妖しい夜を彷彿とさせる、思わせぶりなムードたっぷりな出だしの《カルカッタ・キューティ》につながる。

この前半3曲の流れを追いかけると、じつはタイトル曲のみの印象が強い『ソング・フォー・マイ・ファーザー』は、選曲の流れもなかなか良い内容だということにも気がつく。

ムード、テンポなど聴き手を飽きさせることのない曲配列も、さすがブルーノートならではの完成度の高さを誇っていると思う。

アルバム後半も同様だ。

フレディ・ハバードの『オープン・セサミ』で有名な、ティナ・ブルックス作曲の《ジプシー・ブルー》の親戚のようなメロディの《ケ・パサ》。

アルバムの中もっともエキサイティングで、ロジャー・ハンフリーのドラムの頑張りっぷりが凄い《ザ・キッカー》。

そしてメランコリックなバラードの《ロンリー・ウーマン》への流れも素晴らしい。

《ソング・フォー・マイ・ファーザー》一曲だけで満足するのはあまりにも勿体ない。
アルバムの隅から隅までしゃぶり尽くすように聴いてみてほしい。

記:2009/05/15

album data

SONG FOR MY FATHER (Blue Note)
- Horace Silver

1.Song For My Father
2.Natives Are Restless Tonight
3.Calcutta Cutie
4.Que Pasa?
5.Kicker
6.Lonely Woman

Horace Silver (p)
Carmell Jones (tp)
Joe Henderson (ts)
Teddy Smith (b)
Roger Hmuphries (ds)

1963/10/31 #3,6
1964/10/26 #1,2,4,5

追記

《ソング・フォー・マイ・ファーザー》をカバーしているジャズマンもいますが、いまだ、ブルーノートのホレス・シルヴァーのオリジナルの演奏にかなうバージョンがない理由のひとつとして、テナーサックスのジョー・ヘンダーソンの存在が大きいのではないかと。

アドリブの中盤から、エキサイトしてくるヘンダーソンのテナー。

ヘンダーソンが熱くなればなるほど、バックのリズムフィギュアがクールなまでに淡々として聴こえてくる。

その対比が面白いですね。

ジョーヘンの加入は、かつてのシルヴァー・グループのトランペッターだったブルー・ミッチェルの推薦だったそうですが、なかなか素晴らしい人選だったんじゃないかと思います。

モードの権化のようなテナー奏者・ヘンダーソンではありますが、こういう素朴、かつ土臭さの漂うナンバーでも、なかなかオリジナルな個性を発揮しています。

記:2018/08/19

 - ジャズ