サマータイム/ウォルター・ビショップ Jr.
ドッティのテーマ
微妙にピッチが狂い、何十年も調律をしていないようなピアノ。
このピアノに薄くエコーがかかったような音色が、なぜかノスタルジックな気分をかきたてる。
演奏されるナンバーは、すべてゴキゲン。
マイナー調の曲だって、この音色の効果でハッピーマイナー。
ブルースナンバーも躍動的で、ハッピーなフィーリングを湛えている。
これは一にも二にも、ウォルター・ビショップの明快な指さばきと、それ以上に、良い意味でふくよかさが無く、パキパキとした音色にエコーがかかったような音色が、このアルバム独特のムードを効果を倍増させている。
まるで過去からタイムスリップしてきたような、経年とともに色褪せたセピア色の写真のような音質っぷりをも含めて現代の我々を幸福な気分にさせてくれる。
聴けば聴くほど頬が緩み、やがて涙腺が緩んでくるのだ。
ジャズ評論家の寺島靖国氏は、《ドッティのテーマ》がお気に入りなようだが、この“もろリカード・ボサ”な曲調は、よく聴くと、やっぱりコード進行が《リカード・ボサ》だった(笑)。
そう、ハンク・モブレイが『ディッピン』(ブルーノート)で演奏している有名なナンバーの《リカード・ボサ》だ。
ただし、Aメロのみの構成で、サビの箇所は端折られている。
意外と音数多く、音の上下の跳ねが忙しいメロディの《リカード・ボサ》に比べると、《ドッティのテーマ》は、メロディラインが非常にシンプル。
もっとも、録音は《ドッティのテーマ》のほうが《リカード・ボサ》よりも2年ほど早く、もしかしたら、この印象的なコード進行は何かの有名曲の拝借だったのかもしれないし、もしかしたら、ウォルター・ビショップが《ドッティのテーマ》を土台に新たな曲を作ったのかもしれない。
同じく、寺島氏は、バド・パウエルの『バド!』収録の《ブルー・パール》もお好みのようだが、旋律は違えど、伸ばし気味の音符で形作られるシンプルなテーマは、相似形のように似ている。
めまぐるしく起承転結のハッキリしたメリハリのある分かりやすいコード進行の上に乗る、シンプルなメロディ。そして、ミディアム・ファーストのテンポのピアノトリオ演奏。
氏の好みにも一定の傾向があるようだ。
ま、それはいいとして、私は《ドッティのテーマ》は、たしかにテーマは寺島氏の指摘通り魅惑的だとは思うが、演奏時間の短さゆえ、アドリブパートに関しては、言いたいことを言う前に終わってしまう、尻切れトンボなイメージが拭えず、このアルバムの中ではそれほど良い演奏だとは思えない。
むしろ、音が濁ったピアノの和音が妙に躍動的で、これぞバッパー、ウォルター・ビショップの本領発揮ともいえる《ラヴ・フォー・セール》や、高音の歪んだブロックコードが、なんともノスタルジックで、かつゆったり&リラックスしたテンポ設定が心地よい《シングズ・エイント・ホワット・ユーズド・トゥ・ビー》が好きだ。
もっとも、このアルバムは、一つ一つの曲の良し悪しをピンポイントで判断するよりも、どれもが2分、3分単位の短い演奏ゆえ、通しで聴いて、全体の雰囲気を楽しむべきアルバムだと思っている。
一つ、注意が。
CDをiTuneなどのPCのオーディオに取り込む場合は、曲目に注意して欲しい。
私の場合は、フレッシュ・サウンド盤だが、A面にあたる曲と、B面にあたる曲のタイトルが入れ替わっていた。
全14曲中、A面もB面も7曲という配分になっているのだが、A面の1曲目がB面の1曲目になっているので要注意。
記:2007/05/16
album data
SUMMERTIME (Freshsound)
- Walter Bishop Jr.
1.Things Ain't What They Used To Be
2.I Thought About You
3.Tell It The Way It Is
4.Falling In Love With Love
5.Dottie's Theme
6.Summertime
7.Easy To Love
8.33rd Off 3rd
9.Love For Sale
10.Our Romance Is Over
11.Getting Off The Ground
Walter Bishop Jr. (p)
Butch Warren (b)
Jimmy Cobb (ds)
1963/10月