ライフ・イズ・ライク・ザット/メンフィス・スリム
コテコテで淡泊なピアノ
ブギウギ・ピアノの名手、メンフィス・スリム。
要所要所で、鍵盤をこねくりまわすかのようなフレーズと、アタックの強い連打で心地よいアクセントを入れるスリムのピアノは、一言、いかにもなブルースピアノの典型だが、、フレーズのコテコテさとは裏腹に、音の粘り気は淡白。
よって、「数曲でお腹いっぱり!」「ゲップが出る!」ということは、まずない。
ヴォーカル
そして、もちろんスリムのヴォーカルも良い感じだ。
比較的あっさりとした歌唱の中には、人生のペーソスがいっぱい詰まっている。
とくに、高音部にちょっと音程がフラットして声が一瞬裏返る瞬間は、嗚呼、これぞブルース!とため息が出るほど、素晴らしいブルース的節回し。
くわえて、太くて甘い声は、時代が時代ならソウルミュージックの大御所になっていたんじゃないかと思うほどの魅惑的なヴォイスの持ち主だ。
ドラムレス
ドラムはなし。
しかし、ウィリー・ディクソンの強靭なベースがリズムをけん引するので問題ない。
太いベースがゆっくりとベースを刻み、2本のサックスが、メンフィス・スリムのピアノとヴォーカルに特上のデミグラソースをかける。
濃度、味加減、コテコテさ具合は丁度良い塩梅。
極上の演奏が出来上がる。
バーボンが似合う
供の酒は、バーボンがいい。
それも、ハーパーのような口当たりよく甘めなお坊ちゃまなバーボンではなく、オールドクロウのように喉を焦がすようなキツめのものが良い。
カーッと臓腑を熱く焦がし、まろやかでリッチなテイストのスリムの歌とサウンドに耳を傾けよう。
染みます。
歌っている内容も、それに乗っかる太くてコクのあるサウンドもいちいちゴモットモな説得力がある。
シンプルで骨太。
それを言われちゃ頷かざるをえないでしょってアンバイだ。
静かに「分かる、分かる」と頷きながら、黙って酒をくらいましょう。
オシャレだけど、なんだかマッタリと濃くて、ヘヴィなくせに口当たりが良い。
それが、メンフィス・スリムのブルースだ。
ウィリー・ディクソン
このメンフィス・スリムの『ライフ・イズ・ライク・ザット』は、学生時代に買って、一時期取り付かれたかのように聴きまくっていた時期がある。
最初に虜になったのは、なんといっても、ウィリー・ディクソンが奏でる《ペースメーカー・ブギ》のベースだ。
まるで、地の底から這い上がってくるような、太くてごっついベース音だ。
そして、演奏前半のベースをフィーチャーしたコーナーでは、《アルプス一万尺》を奏でるお茶目さ。
これに相槌を打つスリムのピアノが次第にノッてきて、次第に演奏が白熱してゆくさまは、まさに圧巻。
ヴォーカル抜きのナンバーだが、インストジャズを中心に聴いていた人はこの曲からメンフィス・スリムの世界に入門すると良いのではなかろうか。
もちろん、彼の歌入りのナンバーも良い。インストの《ペースメーカー・ブギ》で一気に虜になった私だが、すぐに彼の歌唱にも引き込まれた。
ベタだけども、日本の演歌や歌謡曲には求め得ない洒落心がそこにはあったからだ。特に流行りの歌にありがちな“カッコつけしいウソくささ”が皆無で、呆れるほどストレートでピュアな世界がそこにあると感じた。
その感触はいまでも同じ。
シンプルだけれども大切なことを、この穏やかで太く逞しいサウンドと歌が教えてくれる。決して押し付けがましくも、カッコつけもなしで。
だから、アルコールとともに心地よく五臓六腑に染みてくるのだ。
で、もう1杯、あと2杯とばかりに酒が進む。
ライフ・イズ・ライク・ザット。
ま、人生そんなもんやね。
記:2007/10/10
album data
LIFE IS LIKE THAT (P-Vine)
- Memphis Slim
1.Life Is Like That
2.Nobody Loves Me
3.Sometimes I Feel Like A Motherless Child
4.Pacemaker Boogie
5.Harlem Bound
6.Darling, I Miss You So
7.Lend Me Your Love
8.Cheatin' Around
9.A Letter Home
10.Now I Got The Blues
11.Grinder Man Blues
12.Don't Ration My Love
13.Slim's Boogie
14.Little Mary
15.Mistake In Life
16.Messin' Around With The Blues
17.Midnight Jump
Memphis Slim (p,vo)
Alex Atkins (as)
Ernest Cotton (ts)
Willie Dixon (b)
Betty Overton (b)
1947-1949年