マイルス・デイヴィス・オールスターズ vol.2/マイルス・デイヴィス

      2023/02/08

最後に戻ってくるところ

『カインド・オブ・ブルー』が好きで、『ビッチェズ・ブリュー』に圧倒され、『オン・ザ・コーナー』や『ダーク・メイガス』でクラクラする。

このようなことを過去に散々書いてきたけれども、そして、それらはウソ偽りの無い事実だけれども、結局、私が最終的に戻ってくるマイルスは、きっと、ここなのです。

ブルーノートのマイルス。

正確にいうと、ブルーノートに吹き込まれた1952年、53年、54年の演奏。
2枚のアルバムに分けて収録された『マイルス・デイヴィス』。

これがあれば、なにもいらない。

……と、書くと少々大袈裟かもしれないが、私にとって大切な作品なことには変わりない。

とにもかくにも全部好き

私がいちばん最初に自腹を切って買ったマイルス、演奏の細部までくり返し聴きこんだマイルス。

とにかくこのアルバムが好きなんです。

いや、好きという言葉では終われないな。もう身体の一部といってもいいぐらい。

ジャズのレビューを色々と書いてきた私だがこのアルバムに関してのレビューは避けていた。あまりにも思い入れが強すぎて、自分自身の感情をうまく言語化できなかったからだ。

しかし、いつまでも内に秘めてくすぶっていても仕方がない。ここらで、もう吐き出してしまおう。

「ボクが一番思い入れのあるマイルスのアルバムはコレなんです」、と。
「ブルーノートのvol.1とvol.2のマイルスが好きなんです」、と。

どこが好きかというと……、そうですね、もう全部!

こういうムードを待っていた!

ムード、メロウな感じと、どことなく漂う諦観めいたニュアンス。

それなのに、しっかりとした骨太な力強さも感じられ。退廃的なムードと、相反するような前へと一歩ずつ力強く歩んでゆこうとする音に込められた意思。

収録曲は、もちろんすべて良いが、強いていえば、力強い《テンパス・フュージット》と、深みのあるバラード《アイ・ウェイテッド・フォー・ユー》か。

バド・パウエルのオリジナル演奏は別格だが、多くのジャズマンがトライした数ある《テンパス・フュージット》の中ではこのバージョンが一番好きだ。

緊張感溢れるマイルスの重たいラッパが空間を強引に捻り切る。 アート・ブレイキーの迫力あるドラムも炸裂する。

この2つの要素で、初めてマイルスを聴いた私は「これはヤバい。細かいことはよく分からないけれども、これは何かありそうだ」と直感した。

ちなみに、ジャズに入門したての私が、トランペットで最初に買ったアルバムは、ヒノテルのベストだった(笑)。

4ビートな内容を期待したら、思いっきり8ビートや16ビートのフュージョンだった……。

「これもジャズっていうんだろうか? なぁんか違うよなぁ」
サクッと小気味良いフュージョンサウンドを聴きながら首をかしげた。

そして、2番目に手を出したトランペッターが、マイルスだった。

名前ぐらいは知っていたし、ジャズの中では大御所らしい、ということも漠然と知っていた(カラヤンがクラシックの指揮者の中では大御所らしい、程度の予備知識だが)。

その程度の予備知識なので、店頭ではどのアルバムを買えばいいのか分かるはずもなく、一番気になるジャケットのCDを買った。

それが、ブルーノートの『マイルス・デイヴィス』。

ジャケット下に横長にトリミングされたマイルスの姿。

この若きトランペッターは、トランペットを吹きながら、指の間に煙の出た煙草を挟んでいる。

そこが気に入った。

これぞ、オレの求めていた雰囲気だよ~って。

安易だなぁ。
でも、そういうムードに憧れていたのよ。

東芝EMI編集のCD

私が購入したブルーノートのマイルスは、東芝EMIがvol.1と2の曲をゴチャマゼに編集されたベスト盤CD。

しかし、それが良かったのかもしれない。
冒頭が《テンパス・フュージット》だったから。

しょっぱなの演奏から、なんともいえない未知なるヤバい世界を感じることが出来たから。

この編集盤では、《エニグマ》や、《ケロ》、それに《レイズ・アイディア》がカットされていたものの、ラストを《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》で飾るという気の利いた選曲だった。

勢い溢れる演奏で始まり、途中はホレス・シルヴァーがピアノのワン・ホーンカルテットが多くの曲を占め、最後は落涙ものの《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》で締めるという構成。

vol.1と2のオイシイところをコンパクトにまとめてくれた内容ゆえ、今考えると、この曲順で良かったのかもしれない。

ちょうど流れのヘソに当たるところに《アイ・ウェイテッド・フォー・ユー》を配しているところもなかなかだった。

そう、《アイ・ウェイテッド・フォー・ユー》が好きなんだよねぇ。

アイ・ウェイテッド・フォー・ユー

醒めたバラード、諦観すら漂うメロディの《アイ・ウェイテッド・フォー・ユー》。
何もかもが終わってしまった後の諦観を感じさせる。

やるせなさを感じるのだけれども、同時に力を出し切った後の心地よい倦怠感も感じられ、後年の「かっこいいバラード吹き」として名を馳せるマイルスには出せない朴訥な味を感じる。

加えて、ギル・コギンズのピアノもいいんだよな。イントロといい、マイルスの「語り」を深く彩るバッキングといい。

と、とりあえず、《テンパス・フュージット》と《アイ・ウェイテッド・フォー・ユー》の2曲に紹介はとどめるが、このアルバムは、個人的な心の宝物なので、万人にはお勧めしません(笑)。

しかし、ここで聴けるマイルスのトランペットに痺れ、 深いため息をつくことが出来る人とは、きっと一生の友人になれることでしょう。

ちなみに、オリジナルの『マイルス・デイヴィス・オールスターズ vol.2』は、ブルーノート1502番。

人生の節目節目に聴きたいアルバムにもなり得るが、私にとっては日常的に、疲れた深夜に臓腑に沁みる深夜のしじみ汁のようなアルバムなのだ。

記:2006/09/06

album data

MILES DAVIS VOL.2 (Blue Note)
- Miles Davis

1.Take Off
2.Wired
3.Would'n You
4.I Waited For You
5.Ray's Idea(Alternate Take)
6.Donna
7.Well You Needn't
8.The Leap
9.Lazy Susan
10.Tempus Fugit (alt)
11.It Never Entered My Mind

#3,6
Miles Davis (tp)
J.J.Johnson (trb)
Jackie McLean (as)
Gil Coggins (p)
Oscar Pettiford (b)
Kenny Clarke (ds)

1952/05/09

#4,5,10
Miles Davis (tp)
J.J.Johnson (trb)
Jackie McLean (as)
Jimmy Heath (as)
Gil Coggins (p)
Percy Heath (b)
Art Blakey (ds)

1953/04/20

#1,2,7,8,9,11
Miles Davis (tp)
Horace Silver (p)
Percy Heath (b)
Art Blakey (ds)

1954/03/06

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追記

私がはじめて聴いたマイルス・デイヴィスとアート・ブレイキーの演奏は、《テンパス・フュージット》だったんです。
そう、ブルーノートの『マイルス・デイヴィス・オールスターズ』に収録されている演奏ですね。

冒頭数秒から、なんだかヤバすぎる危険な香りがムンムン漂ってきて、「お~これこそジャズだぁ!」……なんて、わけのわからん興奮でアドレナリンが出まくったことを覚えています。

凄まじきシンバルの乱打

その頃の私は、まだジャズ初心者だったゆえ、テーマのメロディとかアドリブとかはよくわからなかったけど、空気をこれでもか、これでもかとビシビシバシバシむち打つようなドラムの音にはキましたね。

ドラムの主はアート・ブレイキー。

特にマイルスのトランペットソロが終わってからのほうが(ジミー・ヒースや、J.J.ジョンソンのソロパートね)ブレイキーの「乱打」がよりいっそう凄まじく勢いづき、そのとき超大音量で聴いてたら失神してたかもね。(←ちょっと誇張)

その後、ジャズ・メッセンジャーズというブレイキー率いるグループの存在を知り、『モーニン』を聴いて、「これが本当に同じドラムの人?!」とズッコけたものですが(笑)、ま、後になって、『モーニン』のドラミングもそれはそれで良さを見いだすようになりましたけど……。

《チュニジアの夜》なども知り、またメッセンジャーズのアルバムも少しずつ増えるにしたがってブレイキーのドラミングの個性、持ち味などを掴めるようにはなり、大好きなドラマーになったんですけど、でも、やっぱりマイルスと演った《テンパス・フュージット》ほど殺気立ったドラミングのトラックにはいまだ出会っていないのです。

ヤヴァ凄いドラミング

キャリアの長いブレイキーのこと、他にももっと素晴らしいドラミングの演奏はたくさんあるんですけど、《テンパス・フュージット》のマスターテイクほど殺されそうにヤバい気分にさせられるドラミングって他にないような気がする。

今聴いても、最初に聴いたときの衝撃に近いものを感じます。
「ヤバ凄い」という形容がもっとも似合うドラミングなんですよ。

バド・パウエル作曲の厳しい曲想や、それにピッタリな当時のマイルスの鉛色のオープンラッパ。

そして、当時まだ若かったジャズマンが放出するひたむきなエネルギー。

これら様々な要素が相乗効果としてブレイキーのドラミングにオーラとなってまとわりついていたのかもしれませんね。

しかし、オルタネイト・テイクの演奏は炭酸の抜けたビールのようで、同じメンバー、同じテンポ、同じアレンジなのに、どうしてこうも感じる雰囲気が違うのだろう。

奇跡的な演奏をとらえた音源なのかもしれませんね、《テンパス・フュージット》のマスターテイクは。

記:2010/09/02

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