ミストラル/フレディ・ハバード
2021/02/09
アート・ペッパーが参加
「ミストラル」といえば、フランス海軍の「ミストラル級強襲揚陸艦」を思い浮かべる。
フードル級よりは一回り、いや二回りほど大きな船体で、そのシンプルで平面的な外見とは裏腹に、なかなか強力な装備と武装を持つ軍艦だ。
しかし、フレディ・ハバードのリーダー作、『ミストラル』は、そのような「WAR」なイメージとは裏腹の爽やかサウンドのアルバムだ。
まさにジャケ写どおりのフュージョン寄りのサウンドだ。
この軽やかなテイストのサウンドは、BGMとしても気軽に聴き流せるサウンドではあるのだが、どうしても軽く聞き流せないポイントは、なんといってもアート・ペッパーが参加していること。
ハバードとペッパー、唯一の共演作が『ミストラル』なのだ。
フュージョン全盛期のリズムセクション
ペッパーの他にも参加ミュージシャンは、スタンリー・クラーク、ジョージ・ケイブルス、ピーター・アースキンという無視できない実力者ばかりの顔ぶれ。
私は80年の「フュージョンの空気」を体感していない世代なので(YMOと周辺の音楽家に一辺倒だった)、当時のジャズとフュージョンの人気の比率のようなものはよく分からないのだが、このサウンドといい、このジャケットといい、おそらくはフュージョンブームに乗っかって制作されたアルバムだと思われる。
つまりは旧来のファン(ハバードやペッパー)を今風(当時の)サウンドに誘い(何しろハバードとペッパーの共演ですからね)、またフュージョン好きだが、それまでのジャズをよく知らない若い世代も、今風(当時の)サウンドに誘おうという企画だったのだろう。
結果的に生まれたサウンドは、悪く言えば「無難」。
しかし、この言葉をひっくり返すと「聴きやすい」になる。
「無難」というのは、特にハバードとペッパーが共演したからといって、結果的に「競演」にはなっていないこと。
両者ともクオリティ高いプロの仕事をしているのだが(だから聴きやすい)、ジャズによくある「ハプニング性」や、そこから生じるスリルはない。
それをどう評価するにもよるのだが、おそらく、このフラットで聴きやすいサウンドテイストは、制作者側が参加ジャズマンたちに求めた温度なのかもしれない。
ジョージ・ケイブルス
要はジョージ・ケイブルスなのではないかと思う。
エレピも操る彼は、当然、スタクラ(スタンリー・クラーク)や、ピーター・アースキンのようなフュージョン世代のリズムマンとも綺麗に共存することが出来る。
と同時に、ジョージ・ケイブルスといえば、晩年のアート・ペッパーとよく共演していたピアニストでもある。
このアルバムにおいてのケイブルスは、ハバード、ペッパーを、フュージョンスタイルのリズムセクションに効果的に橋渡しをする良い「つなぎ」として機能している。
サウンドの軽やかさから、それほど真剣に聴くほどの内容ではないかもしれないけれども、パーソネルのネームバリューからも微に入り細に入りと聴きこむと、やはり、「さすがはベテラン!」と唸る瞬間がいくつもある。
特にハバードは、リーダー作ということもあるし、生来の性格というものも手伝ってか、70~80の力で軽々吹いているつもりでも、時折、「100」を出そうとする瞬間があったりするので、それはそれで聴いていて楽しかったりもするのだ。
記:2012/11/28
album data
MISTRAL (Liberty)
- Freddie Hubbard
1.Sunshine Lady
2.Eclipse
3.Blue Nights
4.Now I've Found Love
5.I Love You
6.Bring It Back Home
Freddie Hubbard (tp,flh)
Phil Ranelin (tb)
Art Pepper (as)
George Cables (p,elp)
Peter Wolf (syn) #3
Roland Bautista (g)
Stanley Clarke (p)
Peter Erskine (ds)
1980/09/15,17,18 and 19