マイルス・デイヴィス・アンド・ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ/マイルス・デイヴィス

2020-02-25

動画レビュー

「クリスマスセッション」と「マラソンセッション」

もはや、1954年12月24日におこなわれた、マイルス・デイヴィスとセロニアス・モンクの「クリスマスセッション」は「喧嘩セッション」ではなかったことは定説になっているので、ここでは繰り返さない。

で、マイルスとモンクの「クリスマスセッション」といえば、『バグズ・グルーヴ』のほうが有名た。

まあ、それも分からないことではない。

何の変哲もないミルト・ジャクソン作曲のブルースを、あれほどまでに格調高い演奏にしてしまった表題曲がはいっているうえに、後半のホレス・シルヴァーやソニー・ロリンズが参加した別の日のセッションにおいては、ロリンズの代表曲である《オレオ》や《ドキシー》の初演も収録されていることから、『バグズ・グルーヴ』というアルバムは、名演、名曲のオンパレードということもあり、同日の「クリスマスセッション」で録音された『マイルス・デイヴィス・アンド・ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ』よりは、何かと話題に事欠かないといのだ。

しかし、肝心な「クリスマスセッション」のナンバーは《バグズ・グルーヴ》1曲しかない。
正確には、マスターテイクとオルタネイト・テイクの2トラックではあるが、曲としては1曲のみだ。

残りの曲は?といえば、この『マイルス・デイヴィス・アンド・ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ』に収録されている。

ピアノを弾くことをやめたモンクをマイルスがトランペットで鼓舞しているというエピソードで有名な《ザ・マン・アイ・ラヴ》、そしてマイルス作曲の《スウィング・スプリング》と、モンク作曲の《ベムシャ・スウィング》だ。

《ザ・マン・アイ・ラヴ》は2テイク収録されているが、これだけだとアルバム1枚分の収録時間に満たない。

だから、1956年のマラソンセッションで録音された1曲である《ラウンド・ミッドナイト》を追加して、ようやく1枚のアルバムの体をなしているというのが『マイルス・デイヴィス・アンド・ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ』だ。

モンク作曲のナンバーのみにモンク不参加というのも何やら皮肉めいた選曲かもしれないが、ここはアルバム作りが良い意味でも悪い意味でも大雑把なプレスティッジならではの曲配列ともいえる。

同時代の代表的なジャズのレーベル、ブルーノートの場合は、アルバム1枚を作るためにガッツリと取り組んでいた。
ギャラを払ってリハーサル日を設けたり、アルバムの目玉曲作りをリーダーとなるジャズマンに依頼したりと。
とにかく、1枚のしっかりとした「完成品」を作り出そうとするブルーノートに対し、プレスティッジの場合は、イキの良いジャズを記録する「ドキュメント」としてのアルバム作りをしていたのだと思う。

だから、あまり細かいことにはこだわらずに、とにかくスタジオの時間枠いっぱいにジャズマンに演奏させ、後日、違う日の録音を混ぜた選曲でアルバムを出すことが多い。

たとえば、プレスティッジから出ているコルトレーンやレッド・ガーランドがリーダーのアルバムの多くは、1枚通して同日録音の演奏もあるが、別な日時に録音された曲がくっついて編集されていることも少なくない。

それと、まさに、このアルバムに収録されている《ラウンド・ミッドナイト》がそうだ。
1956年の5月11日と10月26日の2日間で、一気に録音された演奏を、『クッキン』『リラクシン』『ワーキン』『スティーミン』という4枚のアルバムに分けて小出しに発売し、さらに、上記4枚に収録しない《ラウンド・ミッドナイト》を、マイルスとモンクのクリスマスセッションの作品、すなわち、この『マイルス・デイヴィス・アンド・ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ』に収録して発売している。

2日ぶんのスタジオ録音が、5枚のアルバムに分散収録されているわけだが、そのような編集でも、それぞれのアルバムが素晴らしい出来なのは、やはり勢いある当時のジャズマン達の演奏をストレートに捉え、それらをまるで洋服やアクセサリーをコーディネイトするかのごとく絶妙な選曲をほどこしたからなのだろう。

プレスティッジの社長、ボブ・ワインストックならではの手腕といえる。

ミルト・ジャクソン

さて、肝心な音楽の内容だが、やはりマイルスのトランペットの節約されたストイックなフレーズ作りが印象に残る。
そして、これと良い対比をなしているのが、ミルト・ジャクソンの奔放なヴィブラフォンだ。

MJQでの演奏とはまるで異なる雰囲気がヴィブラフォンが叩き出される。
というか、パーシー・ヒースもケニー・クラークもMJQのメンバーなんだけどね。
しかし、ピアノのジョン・ルイスがいないだけでも、こんなにもテイストが変わるということは、それだけジョン・ルイスの締め付けが厳しかったのだろう。

饒舌かつ奔放なプレイながらも、どこか締まりと気品のあるミルト・ジャクソンのプレイは、モンクとマイルスのほどよい橋渡しを果たしてくれており、結果的に、クリスマスセッションの演奏にはなくてはならない人選だったということが音を聴けばよく分かる。

モンクのピアノは、たどたどしい感じでテーマのメロディをなぞるように開始される《ザ・マン・アイ・ラヴ》のアドリブが面白いといえば面白いが、ピアノを弾くのをやめたり、マイルスのトランペットに促されて弾き始めたりと、演奏上のストーリーとしては面白いのだが、アドリブの流れ、組み立てに関しては、やはり同日録音の《バグズ・グルーヴ》のピアノのほうが数倍優れていると感じる。

というよりも、その独創性、閃きに関しては、《バグズ・グルーヴ》の特にテイク1のアドリブに関しては、もはや奇跡と言っても過言ではなく、モンクのアドリブの最高傑作であると私は信じているため、それに比べると、どうしても『モダンジャズ・ジャイアンツ』のモンクの演奏に関しては凡庸に感じてしまうのだ。

だから、世評的には『バグズ・グルーヴ』のほうが評価が高いというのもうなずける。

しかし、喧嘩はなかったにせよ、マイルスとモンクが生み出した何とも形容しがたい緊迫したムードは、他の演奏では決して味わうことが出来ないものであるため、やはり『バグズ・グルーヴ』とともに『マイルス・デイヴィス・アンド・ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ』の2枚合わせて、1954年12月24日の「クリスマスセッション」を味わって欲しいと思う。

モンクが苦手な人も、このアルバムのモンクのピアノには愛おしさを感じるかもしれない。

記:2019/12/28

album data

MILES DAVIS AND THE MODERN JAZZ GIANTS (Prestige)
– Miles Davis

1.The Man I Love (Take 2)
2.Swing Spring
3.’Round Midnight
4.Bemsha Swing
5.The Man I Love

1954/12/24
Miles Davis (trumpet)
Milt Jackson (vibraphone)
Thelonious Monk (piano)
Percy Heath (bass)
Kenny Clarke (drums)

1956/10/26 ※’Round Midnight
Miles Davis (trumpet)
John Coltrane (tenor saxophone)
Red Garland (piano)
Paul Chambers (bass)
Philly Joe Jones (drums)

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