ヴィレッジヴァンガードの大西順子/大西順子
ミンガスとオーネットを弾く女
大西順子は、ミンガスとオーネットを弾くために生まれてきたピアニストである。
そんなことを断言してしまいたくなるほど、このアルバムに収録されている《ソー・ロング・エリック》と《コンジーニアリティ》は完璧、圧巻、スケールがデカい。
もちろん、現在も活動中のピアニストゆえ、ミンガス&オーネットという狭い括りで表現領域を断定してしまうのは失礼な話だとは思っている。
しかし、少なくともこのアルバムが発売された1994年の時点で新譜としてコレを聴いたときの嬉しい衝撃は今でも忘れられない。
そして、その時の感想が「大西順子はオーネットとミンガスをピアノで弾くために生まれてきたに違いない!」。
もちろん、このヴァンガードでのライブは、MJQのナンバーなども取り上げており、彼女のジャズに対しての造詣の深さと、それを的確に受け継ぎ、適格に彼女龍の息吹を吹き込んでいることは分かる。
しかし、やはり圧巻としか言いようがないのが、このアルバムの冒頭とラスト、すなわち、ミンガスとオーネットのナンバーなのだ。
ソー・ロング・エリック
ベーシスト、チャールズ・ミンガスが目指したことの一つに、「エリントンの音楽を少人数で表現すること」がある。
つまり、デューク・エリントンがオーケストラを用いて表現した濃厚、濃密なサウンドテイストを少人数編成のコンボで再現しようという試みだ。
この試みは、ほぼ成功しているのでなないかと個人的には考えている。
たとえば、ミンガス作曲の《オレンジ色のドレス》などのアンサンブルを聴けば、エリントンが持つエキゾチックなフレヴァーと、分厚く濁ったサウンドを少人数編成のコンボで表現することに成功しているし、彼の代表作である『直立猿人』なども、とても5人で繰り広げられているとは思えないほどの重厚なサウンドだ。
エリントン・オーケストラが放つ芳香豊か、かつ濃厚なサウンドを小規模化に成功したのがミンガスだとすると、さらに小型化に成功したのが、大西順子なのかもしれない。
なにしろベースとドラムスを従えるだけのピアノトリオで、ミンガスのサウンド、いや、エリントンの重々しさを感じさせるニュアンスまでをも感じさせるのだから。
とにもかくにも圧巻な1曲目《ソー・ロング・エリック》に耳を通してみよう。
ミンガスの『タウンホール・コンサート』を持っている人は、聴き比べてみるのも一興かも。
コンジーニアリティ
ラストの《コンジーニアリティ》に関しては、すでに2枚目のアルバム『クルージン』でも試みているナンバーだ。
このアルバムに収録されたアレンジと同一のスタイルでヴァンガードで演奏されているが、アルバムバージョンの演奏に対してさらに磨きがかかった感じがする。
ピアノのみならず、ベース、ドラムも緊密かつ抜群のコンビネーションだ。
『クルージン』の時の演奏よりも、手馴れた分さらに磨きがかかっているように感じる。
やはり大西順子の《コンジーニアリティ》といえば、中盤での倍テン(倍速テンポ)にチェンジした際のアドリブだろう。
めくるめくスピード感。
それに加え、一音一音が確信を持って弾かれているため、ブレなどまったく無い力強いタッチが魅力だ。
こんな凄いピアニストが日本にはいたんだ!
ヴァンガードの観客たちは目を丸くしていたに違いない。
記:2017/06/02
album data
Junko Onishi Live At The Village Vanguard (somethin' else)
- 大西順子
1.So Long Eric
2.Blues Sky
3.Concord
4.How Long Has This Been Goin' On
5.Darn That Dream
6.Congeniarity
大西順子 (p)
レジナルド・ヴィール - ベース
ハーラン・ライリー - ドラムス
1994/05/06-08