I play "my" bass.

      2018/01/14

onair

He plays the guitar.

このように、中学の英語の授業では、楽器の前には冠詞の"the"を付けるように教わった。

ところが、最近は、play guitar のように"the"を抜いて使われることが多くなっているという。

もちろん、クラシックの世界では、頑なに"the"をつけることが主流のようだが、ジャズやポピュラー音楽の場合は、"the"を抜かす傾向が強まってきている。

"the"が取れて庶民のものになった。

誰しもが了解する当たり前のものになったという意識が強まり、あえて冠詞をくっつける必要無しという風潮になってきているのだろうと分析している人もいる。

たしかに、特にジャズの場合、わざわざ持ち運んだり銘柄を指定する人も中にはいるが、多くの演奏者は、その場所にある楽器を使うことが多い。

特にドラムやピアノなどはそれが顕著だ。

どんなにオンボロだろうが、チューニングや状態がヘンだろうが、“出たとこ勝負”ならぬ“あったもの勝負”の傾向が強く、いちいち演奏道具に細かいコダワリを持ちすぎても始まらないこともある。

山下洋輔も度々エッセイに書いているが、ピアニストはその会場にあるピアノを弾かねばならないし、毎回毎回出会う違うピアノを手なづけなければならない。

そういった意味では、いちいち楽器の前に"the"など付ける必要というか、そういう意識がなくなってくるのかもしれない。

I play "the" piano.

というよりは、むしろ、

I play "a" piano.

の意識が強くなるのも分からぬではない。

しかし、ことベースの場合はどうだろう?

ウッドベースなどは、会場備え付けのものを使用することもあるかもしれないが、多くの場合ベーシストは“マイベース”を持ち歩くことのほうが多いと思う。

もちろん、私もそうだ。

私のベースは私のクセや好みに合わせてチューニングされているし、私のベースのコンディションに合わせて私はベースを弾く。

また、ベースも私のコンディションに応じた音をまるで鏡のように正直に出してくれる。

そういった意味では、ある意味“私のベース”は私の肉体の延長でもあるし、私の気持ちや肉体と一心同体なところも確かにあるのだ。

私はベースが大好きなアマチュアベース弾きだが、"a bass"としてのベースが好きなわけではない。

つまり、当たり前だが、ベースだからといって何でもかんでも好きなわけでもないし、4本の弦の張ってある“ベースと呼ばれている楽器”ならば何でも弾けるというわけでは決してない。

「弘法筆を選ばず」なレベルではないということだ。

それが証拠に、バンドの練習にベースを持って行くのを忘れて(!)スタジオでベースをレンタルして弾いたことも何度かあったが、一度として満足の行く音色を出せたり、満足出来るプレイが出来たためしが無いのだ。

それどころか、メンバーの足を引っ張ってばかりの本当にボロボロなプレイばかり。

同じ楽器なのに、これほどまでに違うものかと愕然とすることが多かった。

私にとってのベースとは、フェンダーのオールド・フレットレス・フラットワウンドの弦という、ハード的には三つの条件を満たし、なおかつ、“ジャズベースの場合は、フロントピックアップ寄りの位置でピッキングした音をリアのピックアップで拾った音が、甘く良く通るサウンドで鳴ってくれる”という、他のベーシストからしてみれば、「なんじゃそりゃ?」と思うかもしれない条件を満たしていないと、なかなかベースを弾いている自分を実感出来ないのだ。

ワガママ、と言ってしまえばそれまでの話だが、要するに“俺のベース”じゃないとベースという気がしないし、うまい具合に楽器をコントロール出来る自信が無い。

逆に、“俺のベース”という楽器の特性が、私なりの音の好みと、独自の奏法を育んできたとも言え、要するに“俺のベース”と“俺”は、お互いの好みとクセを反映しあって成長を続けてきたのだと言える。

だから、私は自分のベースじゃないとうまく弾ける自信はまったく無いし、逆に私のベースを他の人が弾いても、弾き心地も、サウンドも、必ずしも満足の行くものにはならないと思う。

そういうわけで、私にとってのベースといえば、現在私が所有しているベースをおいて他が無いわけで、断じて"a bass"ではなく、どうしても"the bass"じゃないとシックリこないのだ。

あ、"the bass"じゃなくて、"my bass"か(笑)。

しかし、将来的には、私の音楽的なキャラクターと、私のベースのサウンドキャラクターがもっともっと一致して、「あ、この音は、あいつの音だ」と言われるほどのサウンドキャラクターを持てるようになりたいと思っている。

大きな目標ですけどね。

そう、まさに He plays bass. ではなく、He plays "the" bass. と言われるようになりたいと常々思っているのだ。

記:2002/09/18(from「ベース馬鹿見参!」)
 

 - ベース