マイ・フェイヴァリット・シングズ/ジョン・コルトレーン

   

1曲目は飛ばす

このアルバムの聴き方、私の場合。

1曲目は聴かない。飛ばす。

耳タコだからというのが、大きな理由だ。

それに、《マイ・フェイヴァリット・シングズ》が聴きたければ、『セルフレスネス』のほうを聴く。こちらの演奏のほうが圧倒的に素晴らしいと思っているからだ。

テーマのみの吹奏

1曲目は飛ばした。
2曲目は?

2曲目は飛ばさない。
2曲目から聴く。

2曲目は大好きだ。
《エブリタイム・ウィ・セイ・グッドバイ》という曲だ。
コール・ポーターの名曲だ。

うーん、なんて良い曲なんだ。

そう、曲が良いのだ。アドリブが良いというわけではない。というよりも、それ以前にコルトレーンはアドリブを吹いていない。
テーマのみをソプラノ・サックスで吹いている。

丁寧に、一音一音を慈しむように吹いている。

この真摯な姿勢に心打たれる。

演奏全体を通して、ドクン、ドクンと脈打つようなスティーヴ・デイビスの太いベースも良い効果を出している。

マッコイのアドリブ

テーマを吹き終わった時点で、マッコイ・タイナーのピアノへバトン・タッチ。

マッコイのピアノ・ソロが素晴らしい。

幼い頃の記憶がやわらかな残像とともに甦ってくるような、そんな優雅で、そしてどこまでも優しいピアノには、いつも目頭が熱くなる。

マッコイのピアノも、テーマの美しいメロディから大きく逸脱することはなく、しきりにテーマの旋律の断片を匂わせながらのソロだ。

そして、この手法は正解。

イジワルな見方をすると、まだまだ曲を消化しきっていないとも取れるが、ここでは、原曲の持ち味を大切にしたアプローチなのだと好意的に解釈したい。

元より、素晴らしいメロディの曲なのだから、なにも無理して大きく崩す必要など端からないのだ。

リズムも倍テンポになり、演奏が一層華やぐ。
ひらひらとピアノの旋律が宙を舞う。

至福の一時だ。

マッコイのピアノ・ソロで夢見心地になり、ほど良いタイミングで、コルトレーンのソプラノが上に覆い被さるような感じでテーマに戻る。

ラストのテーマを吹くコルトレーン。
美しいメロディを、大事に大事に吹くコルトレーン。

そして、甘美な余韻を残しつつ演奏が終わる。

サマータイム

いや、じつはCDの場合、余韻に浸っている場合ではないのだが……。

レコードならば、ここでA面が終了し、静寂が訪れるのだが、私が聴いているのはCDなのだ。
急いでボリュームを下げないと、3曲目の《サマータイム》が始まってしまうのだ。

《エブリタイム・ウィ・セイ・グッパイ》の余韻を引きずっている状態の中に、いきなりコルトレーンのデリカシーの無い「ぱ~や・やぁ~」は、かなりキツイ。

前曲のムードとのあまりのギャップに唖然とする。ブチ壊しと言ってもよい。

私は、このコルトレーンの冒頭の「ぱ~や・やぁ~」がどうしても好きになれないので、この曲は飛ばすことが多い。いや、ほとんど飛ばしている。

10回に1回ぐらいは飛ばさないでキチンと聴くこともあるが、やっぱりどうしても好きになれる演奏じゃない。

いや、演奏自体は躍動感があって、アグレッシブなので悪くはないが、それでも、「う~む」だ。

なんだか、ひたすら音を詰め込むことだけに余念の無い演奏のどこが《サマータイム》なんじゃい、とも思う。

もちろん彼の「シーツ・オブ・サウンド」が悪いと言っているわけではない。しかし、猫も杓子も「シーツ・ オブ・サウンド」もないだろうと思うのだ。

ケース・バイ・ケース、TPOという言葉があるではないか。

マッコイのピアノ・ソロも閃きが感じられないまま、ズルズルと必要以上に長い気がするし。

だから、この曲は飛ばす。10回に9回は飛ばす。

ラストの《バット・ノット・フォー・ミー》も、マイルスの同曲の演奏に聴き慣れてしまった耳には、ちょっとツラいところがある。

特にテーマ。

アンサンブルの処理には凝ったところも垣間見れるが、なんか、ただ吹いているだけという感じがして、あまり元の曲をリスペクトしている感じが伝わってこない。

アドリブも凝縮した音符を一気に吐き出す「シーツ・オブ・サウンド」の瞬間もあってスゴイと思うが、いまいちピンとこないまま演奏が終わってしまう。

もっとも、その前の《サマー・タイム》よりは幾分かマシな気もするが……。

そう考えると、このアルバム4曲のうち、私が熱心に聴くのって、《エブリタイム・ウィ・セイ・グッパイ》ただ一曲だけか……。

うーん、偏り過ぎ。

タイトル曲の魅力

しかし、とって付けたようなフォローだが、1曲目もたまには聴く。

コルトレーンのソプラノを聴くためではない。

この《マイ・フェイバリット・シングズ》の初演のコルトレーンのソプラノサックスは慎重すぎる。

恐る恐る吹いているように感じる。躍動感が無い。ほぐれていない。固い。

本人はいろいろなことを考えながら吹いているのだろうが、聴くほうからしてみると、単なる「棒吹き」にさえ聞こえてくる。もっとも、そこがたまらんという人も多いのだろうが……。

何が良いのかというと、マッコイの長いピアノソロだ。

このマッコイのピアノも後年に何度も演奏される《マイ・フェイバリット・シングズ》のピアノソロと比較すると、かなり控えめな内容で、若干の固さが残るものの、優雅で美しい世界を築き上げている。

エルヴィン・ジョーンズのドラムも気持ちの良いポリリズムを叩きだしているので、若干引っ込んで聴こえる録音なものの、ドラムだけを追いかけて聴いても退屈はしない。

改めて読み返してみると、私はこのアルバムに関しては、かなり偏った接し方をしていることに今さらながら気がついた。

今さら気付くな、だが……。

記:2002/04/14

album data

MY FAVORITE THINGS (Atlantic)
- John Coltrane

1.My Fovorite Things
2.Everytime We Say Goodbye
3.Summer Time
4.But Not For Me

John Coltrane(ss,ts)
McCoy Tyner(p)
Steve Davis(b)
Elvin Jones(ds)

1960/10/21 #1
1960/10/24 #3
1960/10/26 #2,4

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