マイ・フェイヴァリット・シングス:コルトレーン・アット・ニューポート/ジョン・コルトレーン

   

これを半年聴け!

コルトレーンはどんなジャズマン?

どんなテナーサックスを吹く人?

もし、これからコルトレーンを聴いてみようと思う人がいるとすれば、しかも、真剣にジャズという音楽に向き合いたいというのであれば、迷うことなく「ニューポートのライヴ盤を半年聴きまくりなさい」と言いたい。

このことは、以前ラジオ番組で語ったこともあるが、その時の気持ちは、今も昔もまったく変わらない。

コルトレーンが放つ暑苦しいまでのエネルギーやバイタリティを存分に味わえるうえに、彼を特徴付ける奏法「シーツ・オブ・サウンズ」もたっぷりと堪能することができる。

おまけに、彼の愛奏曲《マイ・フェイヴァリット・シングス》や、バラードの《アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー》も聴けるというオイシさたっぷりのアルバムなのだ。

しかも、演奏が盛り上がってくるとピアノが抜け、ベースが抜け、ドラムとテナーサックスの一騎打ちになるというコルトレーン独特の展開も《インプレッションズ》で確認することができるし、やはりコルトレーンにとってのドラムは、自らを鼓舞するためのエンジンだったのだということも、音でよく理解することができるだろう。

『セルフレスネス』では味わえなかった「あの瞬間」

ただ唯一このアルバムで残念なのは、ドラマーがエルヴィン・ジョーンズではないことだ。

やはり、エルヴィンこそが、コルトレーンにとっては最良のドラマーと私は考えているので、このアルバムの次に手を伸ばすアルバムは、ぜひエルヴィン・ジョーンズが参加しているものにして欲しい。

もっとも、エルヴィンの代役でドラムを叩くロイ・ヘインズも、かなりアグレッシヴで、煽りに関しては、エルヴィン顔負けの瞬間はたくさんあるので、安心して興奮することが出来るはずだ。

2007年に登場したこのアルバムは、名盤『セルフレスネス』のバージョン・アップ盤ともいえる。

『セルフレスネス』は、「最強マイ・フェイヴァリット」を聴くことができるアルバムとして長らく多くのコルトレーンファンを魅了してきた。

しかし、発売当時はレコードだったため、どうしても、収録時間の関係もあり、1963年にニューポートで演奏された内容にハサミが入ってしまっている。

つまり、A面が《マイ・フェイヴァリット・シングス》1曲、B面が《アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー》と、2年後に録音された《セルフレスネス》という構成になっているのだ。

たしかに、A面にはエキサイティングな演奏を配し、B面ではバラードとフリージャズ的アプローチのナンバーを持ってくるという構成は、それぞれの面がキャラ立ちしていて悪くはないと思っているし、この編集が、レコード時代においてはベストな配列なのだろう。

しかし、収録時間がレコードほどの制約を受けなくなったCDならではの利点を活かし、CDの「アット・ニューポート」では、当日演奏された曲の順番通りに収録されているのが嬉しい。

当日の流れを追いかけるドキュメントとしても楽しめるのだ。

アナウンスがあり、少しずつ演奏への期待感が高まってきたところに、1曲目は《マイ・フェイヴァリット》ではなく、バラードの《アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー》から始まるのだ。

そして、『セルフレスネス』では絶対にわからなかったことが、こちらのほうではわかる。

それは、曲と曲のつなぎの短さだ。

《アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー》が終わってシンミリと余韻にひたる間もなく、すぐさまコルトレーンは《マイ・フェイヴァリット・シングス》の「例のイントロ」を吹き始めるのだ。

ついさきほどまで、あれだけエキサイティングで長いカデンツァを独演していたにもかかわらず、すぐさま次の演奏に突入する勢い。

この「例のイントロ」をコルトレーンが吹き始める瞬間と、その直前のわずかな「間」が、いつ聴いても衝撃だ。

休むことなく、テナーサックスを吹いて、吹いて、吹きまくりたいというコルトレーンの強烈な思いが、この瞬間にビンビンと伝わってきて、胸が熱くなってしまうのだ。

そして「セルフレスネス』で聴き慣れているはずの「最強マイ・フェイヴァリット」が始まるのだが、一連の流れを経て展開される《マイ・フェイヴァリット・シングズ》は、「セルフレスネス』で味わえた興奮が倍加し、さらに感動という要素まで加わる。

これに感動出来るか・出来ないか

エネルギッシュなコルトレーンや、マッコイのピアノや、ロイのドラミングも素晴らしいことは言うまでもないが、真摯な姿勢で演奏に取り組むコルトレーンの姿勢までもが「音」から垣間見ることができ、このコルトレーンの姿に感動できない人は、きっと他のコルトレーンのどんなアルバムを聴いても感動することなどできないのではないだろうか。

だからこそ、最初に聴くべきコルトレーンのアルバムなのだ。

ジャズ初心者の方にとっては少々キツめの「洗礼」かもしれないが、ひたむきに音楽に取り組むコルトレーンの音を浴び、そこで何かが見えてくれば、きっとその後は、コルトレーンのどんなアルバムに手を伸ばしても大丈夫だろう。

そういった意味では、このアルバムは、今後のジャズ聴きの運命を占う「試金石」であり、「リトマス試験紙」的な役割をも持っているといえる。

数あるコルトレーンの音源の中でも、「聴かなきゃ一生後悔モノ」度ナンバーワンのアルバムであることは確か。

とにかく、熱い!

記:2015/09/01

album data

MY FAVORITE THINGS:COLTRANE AT NEWPORT (Impulse)
- John Coltrane

1 Spoken Introduction
2 I Want To Talk About You
3 My Favorite Things
4 Impressions(Extended)
5 Introduction By Father Norman O'conner
6 "One Down,One Up "
7 My Favorite Things

John Coltrane (ss, ts)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Roy Haynes (d)

1963/07/07 Newport Jazz Festival

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