ニウロマンティック~ロマン神経症/高橋幸宏
『BGM』と合わせ鏡のようなアルバム
YMOの最高傑作といえば、私は『BGM』か『テクノデリック』だと思っています。
私の中では『BGM』が上位になることもあるし、『テクノデリック』のA面こそが最高だよと思っている時期も周期的に訪れるのですが、いずれにしても、この2枚は甲乙つけがたい名盤である事は確かでしょう。
で、その『BGM』なんですが、リリースされて3か月後(※)に発売された高橋幸宏の3枚目のソロアルバム『ニウロマンティック』のお兄さんのような気がしてなりません。
いや、『BGM』と『ニウロマンティック』という2枚のアルバムは、もしかしたら合わせ鏡ようなものな存在なのかも。
どちらが「陰」で、どちらが「陽」と明確に分類できるわけではないのですが、どうせなら、この2枚を交互に聴きながら、当時もっとも尖っていたYMOのメンバー3人が繰り出す音の世界の深いところまで、どっぷりと耽溺することができると思っています。
ジャケットのビジュアル
『ニウロマンティック』に参加しているメンバーは、YMOの細野晴臣に坂本龍一が全面的に参加しており、さらにYMOのツアーにサポートギタリストとして参加した大村憲治も参加しています。
先述したようにリリースされた時期がほぼ同じであることに加え、メンバーが「ほぼYMO」ということも、この2枚のアルバムが同一なテイストを有しているということは必然であるといえば必然なのですが、それ以外にも、両者の共通点というか同一なテイストを感じる要素はたくさんあります。
まずは、アルバムの玄関でもあるジャケットを見てみましょう。
両方とも水彩画のジャケットです。
淡い感じ、アンニュイなニュアンスを水彩画によって出そうとしたのかもしれませんが、このニュアンスは、そっくりそのまま両者の音楽に当てはまりますね。
神経質な赤いバラ
私が最初に印象に残った曲は、インストナンバーの《神経質な赤いバラ(New (Red) Roses)》でした。
『ニウロマンティック』が発売される前に、ラジオ番組で幸宏氏自らが紹介されていた曲ということもあり、印象に残っていたのだと思いますが、もうひとつの理由が、この曲のリズムって『BGM』の《音楽の計画》によく似ているんですよ。
また、(レコード時代の)A面のラストのインストナンバーということもあり、位置付け的には『BGM』における《千のナイフ》に近いのかな?と思っています。
いわば教授(坂本龍一)色の強いアレンジ、音色ということで。
《ドリップ・ドライ・アイズ》と《バレエ》
『ニウロマンティック』の目玉曲といえば、《ドリップ・ドライ・アイズ》を挙げる人も多いのではないでしょうか?
美しいメロディ、印象的なヴォーカル、中盤のサックスソロなど印象に残る要素が満載です。
私はこの曲を初めて聴いたときは、『BGM』の《バレエ》を思い出しました。
曲調明るい《ドリップ・ドライ・アイズ》と、ダークな《バレエ》は一聴、まったく別物に聞こえるかしれませんが、これもリズム、テンポが同じように感じるんですよね。
さらに歌詞を見てみると、両方とも「女性」のこと。
客観的に第三者の目から女性を観察し、描写している感じがします。
陽の《ドリップ・ドライ・アイズ》と、陰の《バレエ》は、それこそ合わせ鏡的な存在だと思います。
くわえて、腰のある音色でサスティンを押さえたシンセベースのラインが、BGMの《キュー》を彷彿とさせます。
両曲とも細野さんのセンスを如実に感じることが出来ます。
YMO的
他にも探せば色々と『BGM』との共通点や彷彿とさせる要素はたくさん出てくるのですが(《チャージ》を聴くと、スネークマンショーのアルバム収録の《磁性紀-開け心-》を思い出すのは私だけかな?)、もちろん、だからといってすべてが『BGM』的なのかというとそういうわけでもありません。
YMOのアルバムになっちゃいますからね……。
YMOのメンバーの中でも、特に幸宏氏はロマンス色の強い曲を書く方なので、YMOでは演奏されないよな~と思う曲もあります。
たとえば、ラストナンバーの《予感》とかね。
曲調は、英ポップスの影響を受けまくった幸宏氏ならではのものなのですが、Aメロのヴォーカルのバックでブラスっぽい音色のシンセでバッキングをする教授のシンセの音色と和音の響き、バッキングのセンスが、もろYMO、というより、もろ教授。
このように、バックグラウンドがそれぞれ異なる3人の個性が良い具合に溶け合っているところがYMO的であり、そして音色やアレンジのセンスからも濃厚にYMOを感じるアルバムなのであります。
『ニウロマンティック~ロマン神経症』は。
記:2016/11/26
収録曲
1.Glass/ガラス
2.Grand Espoir/大いなる希望
3.Connection/コネクション
4.New (Red) Roses/神経質な赤いバラ
5.Extra-Ordinary/非・凡
6.Drip Dry Eyes/ドリップ・ドライ・アイズ
7.Curtains/カーテン
8.Charge/チャージ
9.Something In The Air/予感
※『BGM』のリリース日は、1981年3月21日で、『ニウロマンティック』のリリース日は、1981年5月24日