ナイス・ガイズ/アート・アンサンブル・オブ・シカゴ
レゲエベースもなかなか
フリージャズ風の出だしから、楽し気なレゲエまで、のっけからクルクルと局面チェンジの忙し《Ja》。
忙しいといえば、マラカイ・フェイヴァースのベース。
ガシッと硬く引き締まった低音で、フリージャズモードの時は目まぐるしく細かなパッセージを弾いたかと思えば、レゲエ調のリズムに変化した瞬間から、ベースラインはもうベースそのもの。
音数多めのレゲエベースを硬いウッドベースの音で、それはそれは滑らかなアーティキュレーションで歌うように弾いている。
ウッドベースをエレキベースに持ち替え、本場のレゲエバンドに参加したら、本場のレゲエベーシストが職を失うほどのゴキゲンなノリをアンサンブルにもたらすのではないだろうか。
後半はちょっと元気がなくなってくるけど、きっとそういうアレンジなのだろう。
強靭!マラカイベース!
3曲目の《フォーカス》のように、アート・アンサンブル・オブ・シカゴらしい管楽器や笛、打楽器の祝宴ともいえる、プリミティヴなフリー・インプロヴィゼーション空間が展開される箇所も、もちろん気持ちが良いし、アルバム中盤のクライマックスの一つでもあるのだが、やはり、このアルバムの場合は、レスター・ボウイ、ロスコー・ミッチェルら管楽器奏者の卓越した頭脳と演奏力を支えるマラカイ・フェイヴァースの柔軟なベースにどうしても注目してしまうのは、他のアルバムでは聴けないレゲエ・ベースを冒頭で聴いてしまったことが大きいのかもしれない。
マラカイのベースは強靭だ。
正確な音程に加えて、一点に収斂した低音のコク、トグロを巻くようなウネリがある。
この強いベースがあるからこそ、ドラムのドン・モイエも3人の管楽器奏者たちも自由に暴れることが出来るのだろう。
《597-59》など、奔放に繰り広げる彼らのインプロヴィゼーションの底辺をブンブン・ブンブン低音が唸りっぱなしで、じつに頼もしく演奏の屋台骨を支えるどころか、まるで発動機のように即興演奏に力を与えている。
このスタミナ、この持久力。
日本人ベーシストは、もっともっと肉を食べなければ、かつ丼を食べなければ!と思わせてしまう剛力ペースであることは間違いない。
なぜカツ丼?
カツ丼の理由は、泉昌之の『豪快さん』をお読みいただけたらと。
傑作です。
もちろん、オーソドックスな4ビートも素晴らしい。
『フル・フォース』の《チャーリーM》を彷彿とさせるテンポと曲調の《ドリーミング・オブ・ザ・マスター》のどっしりとした4拍子歩行のグルーヴ感はどうだ。
同アルバム収録の《ナイス・ガイズ》の4ビートの箇所も同様のテンポなので、マラカイが特異とするテンポは、これらの曲で認められるバネと粘りのミドルテンポなのかもしれない。
これらの4ビートは、全低音4ビーター(4ビートが守備範囲のベーシスト)必聴の無敵ベースといえるだろう。
音も素晴らしく良い
ドイツのルートヴィヒスブルクで録音されたこのアルバム。
レーベルは、さすが音に独自のこだわりを持ちまくるECMなだけあり、ものすごく音の輪郭が鮮やかで、かつクリアだ。
特に、鐘などガムランを彷彿とさせる「金属」の音や、マリンバの「木」の音が透き通るように気持ちが良い。
脳味噌が冷たい水で洗われるかのような心地よさを覚える。
これはぜひとも、優れたオーディオ装置で大音量で聴くに相応しい優れたアルバムといえるだろう。
記:2017/04/25
album data
NICE GUYS (ECM)
- Art Encemble Of Chicago
1.Ja
2.Nice Guys
3.Folkus
4.597-59
5.CYP
6.Dreaming of the Master
Lester Bowie (tP)
Joseph Jarman (saxophones, clarinets, percussion instruments, vo)
Roscoe Mitchell (saxophones, clarinets, fl, percussion instruments)
Malachi Favors Maghostut (b,per,instruments,melodica)
Don Moye (ds,per,vo)
1978/05月
Tonstudio Bauer, Ludwigsburg