北<NORD>/阿部薫・吉沢元治
動画解説
阿部を制御する吉沢の知性
非常に興味深い音の対話だ。
ただ凶暴な音をフリーキーに搾り出すだけではなく、言いたいこと、出したい音が整理整頓されているために、とても聴きやすい。
吉沢元治のしなやかなベース(あるいはチェロ)が、阿部のサックスの上手な“聴き手”に回っているからなのだろう。
彼は音で“話題”をふるのが上手だし、きちんと阿部の独白に相槌を打ち、思いもよらぬ話まで引き出している。
ベースと管楽器の対話といえば、ミンガスとドルフィーの“対話”が有名だが(『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』の《ホワット・ラヴ?》)この演奏は、演出がかっていて、私はあまり好きではない。
ここでお前がこうしたら、オレがこう応えて、そこでああしたら、こっちはこうする、というように、まるでプロレスの試合の流れのように、細部は即興なのだろうが、全体の大まかな流れはすでに決まっていて、なんとなく過程とゴールが見えてしまう安心感と同時に、スリルの足りなさも感じる。
それに比べれば、阿部と吉沢の“対話”は、あくまで自然体。
世間話をしているうちに、思わぬタイミングで興味深い話題になったりと、あくまで、会話としてのリズム、流れがある。
だから、先が読めないスリリングさもあり、さらに、緩急のつき具合も申し分ないので、スリルと安心感がうまく共存した演奏といえる。
話題が尽きた瞬間の空白も、吉沢が非常にうまくフォローしているところも素晴らしい。
この作品は、阿部薫というよりも、柔軟かつスポンティニアスなナビゲイター・吉沢元治のアルバムと言ったほうが正解だろう。
そんな吉沢に敬意を払ってか、「オレが、オレが」タイプの阿部も、一歩引いたスタンスで、吉沢に従っている様が微笑ましい。
徹頭徹尾フリーキーな阿部も良いが、思索的な阿部薫も良いもんです。
記:2005/11/24
album data
北<NORD> Abe・Yoshizawa Duo '75 (コジマ録音)
- 阿部薫・吉沢元治
1.Duo Improvisation No.1
2.Duo Improvisation No.2
阿部薫 (as)
吉沢元治 (b,cello)
1975/10/16 入間市民会館
1975/10/18 青山タワーホールコンサート「なしくずしの死」よりライブ録音