アコースティック・オクトファンク/デヴィッド・マレイ・カルテット
アンドリュー・シリル
1993年、ドイツで演奏されたデヴィッド・マレイのライヴ・パフォーマンスが収録された『アコースティック・オクトファンク』。
編成はピアノレス・トリオで、ドラムがアンドリュー・シリル、ベースがフレッド・ホプキンスだ。
アンドリュー・シリルといえば、長らくセシル・テイラー・ユニットの一員だったこともあり、フリー・ジャズ界の先鋭的なドラマーというイメージが強いが、なかなかどうして、ここではオーソドックスなドラミングでこのトリオを支えている。
もっとも、さすがリズムの拍子を取っ払って緩急自在にピアノを弾きまくるセシル・テイラーにピタリと寄り添うことが出来るドラマーということもあり、リズムのポケットはかなり広い。
ビシッとタイトに決めるドラミングではなく、数小節先を見据えた呼吸の長いドラムをしているところが面白い。
特に、1曲目は、ロリンズを彷彿とさせるカリプソナンバーだが、カリプソの定型パターンを細かくシンバルで連打をしているものの、せわしなさを微塵も感じさせないところが、シリルのタイム感がなせるわざ。
突然カウベルが登場するドラムソロも楽しい1曲目のカリプソナンバーから一気にアルバムの世界に引き込まれることだろう。
フレッド・ホプキンス
このライヴの演奏は、トリオという3人編成であるが音の情報量が多く、密度の高い演奏ゆえ最後まで一気に聴きとおせる「聴きやすさ」がある上に、内容も充実したアルバムだ。
音の情報量の多さは、フラジオ(倍音)をところどころに織り交ぜながら太い中低域のテナーを肉厚たっぷりに吹きまくるマレイのテナーサックスはもちろんのこと、表情豊かなフレッド・ホプキンスのベースによる効果も大きい。
音色、フレーズを含めベースの表情が豊かで、このトリオの屋台骨を支えているホプキンスのベース。
しなやかに暖かい音色で、パッシングノート(経過音)を上手に混ぜながら、コードの流れを分かりやすく形作っているため、ピアノやギターのようなコード楽器が不在でも、非常にメリハリかつ立体感のある曲の輪郭を形成しているのだ。
また、弦をスライドさせたり、時には弦をネックの外側に寄せてパーカッシヴな音色を出したりとニュアンスや音色にも工夫を施していることもあり、演奏に独特なうねりを加味することに貢献している。
アコースティック・オクトファンク
このアルバムの目玉、かつもっとも激しい演奏は、コルトレーン作のマイナーブルース《ミスター・PC》なんだろうけれども、個人的にはタイトルナンバーの《アコースティック・オクトファンク》を気に入っている。
このナンバーのみ、マレイはバスクラリネットを吹いているが、この楽器特有のねっとりとした音色を効果的に引き出し、真っ黒な演奏に染め上げている。
低音をブッ!と吹き、いきなり高音でウネウネとした旋律を奏でるのは、明らかにエリック・ドルフィーの影響だと思われる。
もっとも、ドルフィーの真似に終始しているわけではなく、ドルフィーがあまり用いなかったスラップ奏法を効果的に使用しているところが、マレイ流のバスクラ奏法なのだろう。
スラップ奏法によて叩きつけるような音圧の高い音をリズミックに組み合わせながら盛り上げていくマレイの巧みなテクニック。
パーカッシヴな奏法とともに、ブニブニと低音でトグロを巻くバスクラ特有の軟体動物のような音色。この2つが効果的にミックスした状態で演奏が進んでゆく。
バラエティ豊かなバスクラサウンドと、マレイ特有の太いメロディ感覚が絶妙にマッチしているのだ。
17分を超す長尺演奏だが、片時も退屈することなく最後まで楽しく聴けてしまう《アコースティック・オクトファンク》。
ベースラインは、これ、エレクトリックベースのたとえばプレシジョンなんかでブリッ!と弾かれると、なかなかイナたいサウンドになりそうだが、エレキではなくアコースティックベースの柔らかく温かいサウンドで弾かれるベースラインだからこそ、じわじわと内側からこみ上げてくる独特なノリが生まれてくるのだろう。
観客の反応
それにしても、この観客のノリの良さはどうだ。
ときに女性の甲高い完成も混ざっており、この時のライヴは興奮の坩堝だったのだろう。
演奏終了後の拍手や歓声のみならず、演奏の要所要所にきちんと歓声を上げて反応しているところが、このライヴの徴収は固唾をのんで演奏の移り変わりを見守り、きちんと鑑賞してくれているんだということが伝わってくる。
記:2016/10/05
album data
LIVE '93 ACOUSTIC OCTFUNK (sound hills)
- David Murray Trio
1.Calle De Estrella
2.Joanne's Green Satin Dress
3.Mr.PC
4.Flowers For Albert
5.Acoustic Octfunk
David Murray (ts,bcl)
Fred Hopkins (b)
Andrew Cyrille (ds)
1993/7月