『大阪物語』と《エンドレス・サマー・ヌード》と尾崎豊
『大阪物語』3つのシーン
リアルタイムで観たときは、さほどの感動はなかったのに、まさに「10年殺し」とでもいうべきか、今さらになって、妙にさまざまなシーンが心の中に反芻され、自分の中の評価が格段に上がってしまった映画の1つに、池脇千鶴主演の『大阪物語』があります。
この映画で、思い出すたびに心の中でコロコロと反芻するシーンが私の心の中には3つある。
池脇千鶴の柔らかな大阪弁
3つのうちの2つ、それは主人公・霜月若菜を演じる池脇千鶴のイントロとエンディングの「語り」。
妙にアフタービートの利いた、しなだれかかるほどの柔らかさのある彼女の大阪弁が妙に心地よい。
すごく自然なんだよね。
あたしの名前は霜月若菜。冬の寒い日の、あの霜に夜の月。んで若い菜っ葉で霜月若菜。
大阪で生まれて大阪で育った。
14歳。
14歳ゆうたら、あ、そうか、来年なったら中3か。
高校どないしよう。ちゃんと考えなあかんな~。ま、えっか。
あっとぉ~、えっと……、
えらい健康!
身体検査で身長6センチも伸び取った。ええ調子や。
あとは……、あっ、ん~、こっちが弟。一郎。10歳。挨拶しいや、一郎、一郎、挨拶し。
そして、この語りを彩る映像の光加減も、これまた心地よい。
この2つのシーン(と語り)には忘れがたい、じわりと染みる何かがある。
個人的には「心に残る映画の冒頭シーン」のベスト3には確実に入っておりますね。
エンドレス・サマー・ヌード
それともうひとつは、若菜とトオル(南野公助)が大阪の街を疾走するシーン。
単なる映像だけだったら、こんなに記憶をくすぐらなかったと思うんだけど、バックに流れていた、真心ブラザーズの《エンドレス・サマー・ヌード》が素晴らしく、青春の躍動感を音で補強、代弁していたと思いますね。
だからこそ、このシーンが記憶の中に沈み、醸成され、ある日突然、パッと鮮やかに私の表層意識に浮かびあがってきたのだと思う。
いや、ほんと素晴らしい曲です。
いや、よくよく考えてみると、もちろん曲は素晴らしいのだけれども、それ以上に倉持陽一(YO-KING)のヴォーカルと、バックのアレンジと演奏が素晴らしいのかもしれない。
なぜかというと、同じ曲でも、この曲をカバーしたほかのアーティストたちの作品は、軒並みダメダメだから。どうして同じ曲なのに、こうもダメダメなのかな?と頭の上に大きなクエスチョンマークが何個もユラユラするほどに。
尾崎豊の《風にうたえば》
そういえば、忘れてはいけない、エンディングの尾崎豊の《風にうたえば》も最高ですね。
私、じつはこの映画を観るまでは、そして、この映画のラストの《風にうたえば》に出会うまでは、尾崎豊のことあまり好きじゃなかったんですよね。
でも、この映画の空気が、尾崎の歌を無理なく好きにさせてくれた。
この曲、未発表だったんだそうですね。
尾崎が部屋でギターを弾き語りながら録音したデモテープにドラム、ベース、オーケストラがかぶせられた音源なのだそうで。
だからなのかな、リアルな生々しさを感じるのは。
このナンバーにハマってしまったため、尾崎好きのギターとボーカルの人にライヴでベースを弾いてよと誘われた時には、《風にうたえば》もレパートリーに加えることを条件で引き受けたほどだ。
(そして、楽しくライヴでベースを弾かせてもらいました)
それにしても、なぜ『大阪物語』、名作なのにDVD化されないのかな?