アワ・マン・イン・パリ/デクスター・ゴードン

   

モダンジャズのエネルギーが凝縮された1枚

デックスのぶっ太いテナーが好きだ。

バド・パウエルの一音一音の密度が異様に濃いピアノが好きだ。

ピエール・ミッシェロのピッチもリズムも正確で、黒人に負けないパワー感と太さのあるベースも好きだ。

ケニー・クラークの、どこまでもビ・バップなテイストを色濃く匂わす、喧騒と退廃感のこもったスネアと、シンバルワークが最高だ。

つまり、参加者全員が好きな私にとっては『アワ・マン・イン・パリ』は、極上の組み合わせのアルバムなのだ。

それに加えて、《スクラップル・フロム・ジ・アップル》《柳よ泣いておくれ》《チュニジアの夜》などなど、私の大好きなスタンダード曲も目白押し。

もう言うこと無しのアルバムだ。

デクスター・ゴードンの代表作だということと同時に、少なくとも私にとっては、彼の最高傑作と呼んでも差し支えのないアルバムともいえる。

このアルバム、当初はピアノにはケニー・ドリューが予定されていたのだそうだ。ドリューのピアノに、デックスが新曲を演奏するという予定で。

ところが、ドリューのスケジュールが合わず、急遽、ピアノがバド・パウエルとなった。

しかも、新曲を覚えるのが面倒だとパウエルはこぼしたらしい。

よって、演奏されるナンバーは、パウエルやゴードンの手慣れたスタンダードやバップナンバー中心の選曲となった。

そして、予想外のハプニングが、予想外に良い結果を呼んだ。

名演が生まれ、名盤が誕生したのだ。

ケニー・ドリューとゴードンの共演は、スティープル・チェイスから出ている緒作でたっぷり楽しむとして、このアルバムでは、ひたすらバップ色の濃いエキサイティングで“太い”演奏を楽しむことに主眼を置こう。

一曲目のバップ・ナンバー《スクラップル・フロム・ジ・アップル》から、異国の地で甦る、かつての熱きビ・バップ。

熱気溢れるケニー・クラークのドラムワークは、これぞビ・バップ!

この騒々しくもエネルギッシュなシンバルと、スネアのオカズこそが、モダン・ドラムの開祖、ケニー・クラークの面目躍如と言うべきだろう。

また、このナンバーで聴けるデックスのテナーこそ、彼のエッセンスが凝縮されていると言っても過言ではない。
太さ。

一直線な強さ。

ユーモア。

ところどころに挿入される誰もが知っている別の曲のメロディ。

エネルギー感。

堂々とした風格。

彼の持ち味、そして良い面のすべてが、巧みにブレンドされている。

彼のアドリブに続いて出てくるパウエルのピアノもエモーショナルで良い。パウエル特有の“喘ぎ声”も、立派に音楽の一部となっている。

最初のナンバーから、このアルバムだけが持つ特有の熱気に引き込まれてしまうことだろう。

二曲目の「柳よ泣いておくれ」も素晴らしい出来映えだ。堂々と、朗々と吹くデックスは、実によく歌っている。
こんなに太い「柳よ泣いておくれ」も珍しい。

同じく、太くのびやかに良く歌っている《ブロードウェイ》や《ステア・ウェイ・トゥ・ザ・スターズ》もデックスならではの魅力が満載だが、やはり出色の出来は《チュニジアの夜》だろう。

ケニー・クラーク、バド・パウエルという存在そのものがバップなジャズマンという最高の布陣を得て、ここでのデックスは、じつにパワフルに、エモーショナルに歌っている。

私が《チュニジアの夜》という曲が好きになったのも、この演奏がキッカケだからということもあるが、世に「チュニジア」の名演は数多くあれど、私は、この《チュニジアの夜》こそが、曲の真髄を見事に引きだした最高の演奏の一つだと確信している。

この曲は2管以上で演奏された方が、より魅力的な出来になる可能性の高い曲には違いないが、デックスのバージョンは、ワンホーンながらも、音の足り無さなど微塵も感じさせないほどの厚さと熱さを兼ね備えた演奏となっている。

レコードでは、ここで終わりだが、CDには嬉しいことに二曲のLP未収録曲が追加されている。

リラックスしたブロウに頬が緩む《アワ・ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ》に、極めつけは《ライク・サム・ワン・イン・ラヴ》だろう。

デックスが抜けた、パウエルのピアノトリオだが、無邪気に、そして素朴にピアノと戯れるパウエルが素敵だ。

とても明るく、ベタなメロディの曲だが、この曲を無防備な状態で、ストレートに演奏しているパウエルを聴くと、いつも何故だか涙腺が緩んできてしまう。

まるでピアノのお稽古のようなテーマの演奏。そして、テーマ終了直後に絶妙のタイミングで入ってくるリズムセクション。
このドラムとベースが入った直後からの和やかな空気は、まるで優しいそよ風のようだ。

同じアプローチの《ライク・サム・ワン・イン・ラヴ》は、『バド・パウエル・アット・ザ・ゴールデン・サークル』の第2集でも聴くことが出来るが、個人的には、こちらのバージョンのほうが好きだ。

というわけで、隅から隅まで、楽しめる内容の『アワ・マン・イン・パリ』。デクスター・ゴードンの代表作であるばかりではなく、モダンジャズのおいしいところが惜しげもなくぶち込まれた好盤だと言える。

記:2002/10/01

album data

OUR MAN IN PARIS (Blue Note)
- Dexter Gordon

1.Scrapple From The Apple
2.Willow Weep For Me
3.Broadway
4.Stairway To The Stars
5.A Night In Tunisia
6.Our Love Is Here To Stay (*)
7.Like Someone In Love (*)
    (*)…LP未収録曲

Dexter Gordon (ts)
Bud Powell (p)
Pierre Michelot (b)
Kenny Clark (ds)

1963/05/23

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