アウト・オブ・ジ・アフタヌーン/ロイ・ヘインズ

   

カークのアルバムと勘違いしてしまう

ローランド・カークのアルバムだと、いまだに勘違いしてしまう。

3拍子の《フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン》。

この曲でのカークが吹く「ぶひっ!」や、アドリブの中盤に息継ぎなしにウネウネと続く長い旋律が聴きたくなると、いつもCD棚のカークのコーナーに手が伸びてしまうのだ。

ところが、「あれ?ない?誰かに貸したかな?おかしいなぁ、なくしたかなぁ。」しばし考えること数分。「あ、そういえばロイ・ヘインズのリーダーアルバムだったっよな。」と気が付く。いつも、そんなアホなことを繰り返している私。

この『アウト・オブ・ジ・アフタヌーン』は、ドラムのロイ・へインズのリーダーアルバムながらも、カークの個性の強さゆえ、カークのアルバムと勘違いしてしまっている自分がいる。

素早い合いの手

しかし、さすがにドラマーのリーダー作だけあり、ドラムに意識を集中させると細かなところに聴きどころが多いこともたしか。

ほとんど独り舞台ともいえるカークの背後で、緻密かつダイナミックなドラミングを組み立てているへインズのドラミングにも注目してみよう。

とくにヘインズのスネアによる「合いの手」は素早く、かつ、細かい。

ジョン・コルトレーンの『セルフレスネス』をお聴きになれば分かるとおり、ヘインズの持ち味は、素早くスピード感に溢れ、なおかつ手数の多いスネアのオカズにある。

この素早さは、ハードバップ期のジャズマンよりも、後年のチック・コリアやパット・メセニーのような新しいタイプのミュージシャンとの親和性が高いと感じる。

ゆえに、「パーカー時代から現代のジャズマンと共演している驚異のドラマー」と称されることの多いヘインズだが、彼の本領発揮はパーカーやハードバップの時代よりも、チック・コリアとの共演あたりからだと思われる。

アート・テイラーのようなバックビート、タメに味のあるドラマーが重宝されていた時代の中では、ヘインズのタイム感は特異だったに違いないし、時代のテイスト、速度とは一線を画するタイム感を身に着けたドラマーだったのだ。

ヘンリ・グライムスとトミー・フラナガン

このアルバムの楽しみの一つは、やはり、先述したとおりの、ヘインズのドラミングの素早さだ。

シンバルのレガートはオーソドックスだが、左手のスティックが叩き出すスネアのオカズの素早さは一度気になると、そこにばかり耳がいってしまうほどの個性がある。

この素早さに対応するベーシストとしては、どちらかというと鈍重なタイプのほうが良いマッチングを見せるようだ。たとえば、このアルバムに参加しているヘンリ・グライムスのように。

彼の堅実で太いベース、遊び少なくオーソドックスな音選びを外さないタイプは、ヘインズのスピード感溢れるシャープなドラミングをより一層引き立てるのだ。

ピアノは、ジャズに助演男優賞があれば、最低10回ぐらいは受賞しているに違いない、いぶし銀の名脇役トミー・フラナガンがサポート。演奏を目立たずに引き立てることにかけては天下一品の彼のピアノゆえ、カークの活躍がより一層引き立つ。

ローランド・カーク

そして、やっぱりカーク!
ローランド・カークという怪物、……いや、リード奏者は、テナーとマンゼロ、さらにストリッチという菅楽器を三本まとめて吹いてしまうどころか、鼻でフルートを吹いたり、唸ったり唄ったりする、「サイボーグ009」で言えば、全身が武器だらけの「004」を彷彿とさせる、全身楽器人間。

彼のプレイは気を衒ってる?

とんでもない。彼の音楽は真面目だ。

いや、真面目というとちょっとニュアンスが違うか。

純粋、という言葉がもっとも適切な形容かもしれない。

「頭の中の音」を具現しようと模索した結果、たどり着いた境地。

あくなき音楽に対する探求欲求と、前向きかつ純粋な表現欲求が、このような表現方法に到達したのだといえる。

カークのテナーの音色を聴いてごらん。柔らかくて、暖かいでしょ?
この弾力性のある暖かな音色を聴けば、この人は、テナー一本だけでもとてつもない表現力を持っていることが分かる。

しかも、プレイが、とてもカッコいい。

後年は、R&B風に、いや、ブラックミュージックの広大な世界に触手を伸ばし、どんどん音楽のスケールが大きくなってゆく彼だが、ジャズっぽいカークを聴きたければ、迷わず本盤をおススメする。

由緒正しき4ビートという土俵で、カークはきっちりと勝負をし、見事な成果をあげている。

カークのプレイを堪能したいときにはもちろん、ヘインズのドラミングの個性もたっぷりと凝縮されている本盤は、一粒で二度オイシイアルバムなのだ。

album data

OUT OF THE AFTERNOON (Impulse)
- Roy Haynes

1.Moon Ray
2.Fly Me To The Moon
3.Raoul
4.Snap Crackle
5.If I Should Lose You
6.Long Wharf
7.Some Other Spring

Roy Haynes (ds)
Roland Kirk (ts,manzello,strich,nose-fl)
Tommy Flanagan (p)
Henry Grimes (b)

1962/05/16 & 23

記:2006/07/24

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