アウトワード・バウンド/エリック・ドルフィー

      2021/02/11


Outward Bound

ドルフィー入門に最適

かつては『惑星』という邦題で日本盤が売り出されていたこともあるという、エリック・ドルフィー31歳のときの初リーダーアルバムだ。

ドルフィーの作品の中では聴きやすい部類に入る1枚といえるし、初めてドルフィーを聴く人には安心して勧められる内容ではあるが、そのぶん私のような重度のドルフィー・マニアな私にとっては、少々喰い足りない1枚ではある。

リズム・フィギュアは、きわめてフツーのハードバップな4ビート。

だからこそ、よりいっそうドルフィーの異色さが際立つと同時に、オーソドックスな4ビートジャズとドルフィーというジャズマンの距離感を測るにはもってこいな演奏内容だし、初心者にも比較的容易に入り込める演奏だと思う。

オーソドックスなスタイルから出発した個性

ごくごく普通の4ビートのリズムからドルフィーが浮いているというわけでもなく、キチンと違和感なく溶け合っていることにも注目。

ドルフィーというプレイヤーの特質を知るには最適な演奏が並んでいると思う。

つまり、彼はオーネット・コールマンのように「突然変異的な語法」でいきなりジャズ界に出現したのではなく、あくまでビ・バップの語法をマスターした上で、それを下敷きにした上で独自の語法を開拓していった人なのだ。

ま、このことは、さまざまなジャズ書やライナーで言われていることなので、あまり多くは繰り返さないが、このことが音としてもっとも実感できるのは、このアルバムや『ファー・クライ』が最適だろう。

>>ファー・クライ/エリック・ドルフィー

ドルフィー嫌い女子を虜にした《グリーン・ドルフィン》

テーマの前半のリフをバス・クラリネットで奏でる《グリーン・ドルフィン・ストリート》が、ドルフィー入門者の間では人気のようだ。

ドルフィー奏でるバスクラのあの音色、あのリフ。

従来のこの曲のイメージを、ひっくり返しまではしないけれども、新しい解釈と光を当てたことには間違いない。

以前、「エリック・ドルフィーってあんまり好きじゃないの」という女の子に、このアルバムの《グリーン・ドルフィン・ストリート》を聴かせたら、一発で虜になっていた。

もちろん、曲やアレンジの良さも、大きな魅力だったのだろうが、バスクラリネットのある種、官能的な音色とフレージングも彼女の脳髄を直撃したようだ。

掴みが抜群という意味では、《グリーン・ドルフィン・ストリート》は、このアルバムの"顔"なのかもしれない。

それともう一曲。

フルートで奏でられるバラード《グラッド・トゥ・ビー・アンハッピー》も耳に心地よいためか人気が高い。

しかし、私は後年になっても、繰り返し演奏し続けた《G.W.》や《レス》を見逃すべきではないと思う。

是非、今後ドルフィーを聴き続けてゆこうと思う人は、この2曲を聴きこみ、めくるめくスピード感が大きな持ち味のドルフィーの素晴らしさを体感し、観賞の"基礎耳"を築いて欲しい。

この時期、初期の演奏は、非常にオーソドックスで聴きやすいが、とてもドルフィーらしさのあらわれた曲、演奏であり、とくに《レス》のアルトでのソロは素晴らしい。

スピード感、特異なフレージングとアーティキュレーション。

ドルフィーにしか表現できない独特な音色、演奏は、こちらの耳と脳を心地よく刺激する。

ドルフィー入門に最適。しかし、この1枚では終わらないで欲しい。

あくまでこのアルバムは入り口。まだまだドルフィー・ワールドは奥の奥まで続いているのだから。

記:2009/11/15

album data

OUTWORD BOUND (Prestige)
- Eric Dolphy

1.G.W.
2.On Green Dolphin Street
3.Les
4.245
5.Glad to Be Unhappy
6.Miss Toni
7.April Fool
8.G.W. (Alternte Take 1)
9.245 (Alternate Take 1)

Eric Dolphy (as,bcl,fl)
Freddie Hubbard (tp)
Jackie Byard (p)
George Tucker (b)
Roy Haynes (ds)

1960/04/01

 - ジャズ