アット・ザ・ゴールデン・サークル vol.2/バド・パウエル
ライク・サムワン・イン・ラヴ
後期バド・パウエルのトレードマークとでもいうべき曲の1つに《ライク・サムワン・イン・ラヴ》が挙げられるが、「ゴールデン・サークル」でのライブvol.2の出だしは、スローバージョンの同曲ではじまる。
デクスター・ゴードンの『アワ・マン・インパリ』のオマケテイクや、『ブルース・フォー・ブッフォマン』で演奏されているバージョンと同一のアプローチではあるが、このライブでの演奏はかなりテンポを落とした演奏だ。
まるで出だしのピアノソロは、クラシックピアノの入門者向けの教則本『バイエル』の左手の伴奏のような単純明快な伴奏ではあるが、パウエルが無邪気にこのようなアプローチをするとなんだか微笑ましい気分になる。
と同時に気分もほぐれ、リラックスモードで鑑賞することができる。あくまで他のパウエルの演奏に比べて、だが。
パウエルマジック
特筆すべき聴きどころは特にない。
しかし、パウエルのピアノを丹念に追いかけることによっていつしか「パウエル気分」に意識が塗り替えられていることに気付く。
このあたりが後記パウエルのピアノの不思議で、凡庸な演奏も少なくないのだが、単に「平凡」の一言で済まされない何かを秘めているところが「パウエルマジック」とでもいうべきか。
そして、おそらくは後期パウエルのファンは、このパウエルのピアノから滲み出る暖かさや不完全さに魅力を感じるのだろう。
ブルース・イン・ザ・クロセット
このアルバム中、もっともエキサイティングな演奏ははチャーリー・パーカーの代表曲のひとつ《ムース・ザ・ムーチェ》か。
パウエルがエキサイティング、というよりはドラムが頑張っている。
フィルインや、シンバルのトップをカン!と鳴らしてみたりと、妙にテンションが高く、いつしかパウエルも煽られる形になっているところが面白い。
個人的なベストは《ブルース・イン・ザ・クロセット》だ。
わかりやすいバップフレーズの宝庫。
次から次へと繰り出される聴き覚えのある親しみやすいフレーズを追いかけている限り、演奏時間の長さなどまったく気にならない。
特に迫真の演奏というわけでもなく、むしろ、耳慣れた典型的なバップフレーズが右から左へと繰り出されるような演奏なのだが、ひとつひとつのフレーズの塊に曖昧なところはなく、一音一音をきっちりと耳で追いかけられるため、ジャズピアノ入門者にとっては、ジャズにおける典型的なツー・ファイヴ進行のブルースの勉強にもってこいな内容だと思う。
いたずらに理論先行で学習をして頭デッカチになるよりも、この《ブルース・イン・ザ・クロセット》をトランスクリプトしまくったほうが、よっぽどジャズの栄養を摂取できるのではないかと思う。
『vol.3』の《スウェディッシュ・ペイストリー》とともに、私にとってゴールデン・サークルのバド・パウエルの愛聴曲は、長尺ブルースナンバーなのだ。
学生時代は《ブルース・イン・ザ・クロセット》のみを寝る前に聴いていた時期があったが、今となってはそれも懐かしい思い出だ。
私にとってパウエルの『ゴールデン・サークル』の第二集は、至福の15分、《ブルース・イン・ザ・クロセット》を聴くためのアルバムといってもいいほどなのだ。
記:2013/06/17
album data
AT THE GOLDEN CIRCLE vol.2 (Steeple Chase)
- Bud Powell
1.Like Someone In Love
2.I Hear Music
3.Moose The Mooche
4.Blues In The Closet
5.Star Eyes
Bud Powell (p)
Torbjorn Hultcrntz (b)
Sune Spangberg (ds)
1962/04/19,Stockholm
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