Rain Breton

   

KORGのMONO/POLY

私が中学、高校時代とメインで使用していたシンセサイザーは、KORGのMONO/POLYという機種でした。

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ツマミがたくさんあって、面白い音をたくさん作れるのですが、その「面白い音」とは、フツーの音楽にたいしてフツーに使えるような音色ではなく、むしろ工業的な音、効果音的な音を作るほうが簡単でした。

ということは、逆に言えば、バンドでのアンサンブルに溶け込むようなストリングス系だったり、エレピ系の音色を作ることが非常に難しい。

良くも悪くも、出てくる音が、いちいちインパクトがあり過ぎるんですよ。

たとえば、以下の《ヘレン1号》って曲(音)も、ラストのアコースティックピアノの音を除けば、MONO/POLY1台で、特に多重録音で音を重ねることもなく作っていますから。

モノ・ポリー。

その名前からもご推察のとおり、モノフォニックにもなるし、ポリフォニックにもなるというシンセゆえに、このようなネーミングになったのでしょう。

モノフォニック・シンセサイザーというのは、単音しか出せないシンセ。

つまり、鍵盤を同時に2つ以上押さえたとしても、その押したうち、どれか1つの音しか鳴らないのがモノフォニック・シンセサイザーなのです。

つまり和音を弾くことが出来ない。

ミニ・ムーグなんかが、その代表的な機種でしょうね。

いっぽう、ポリフォニック・シンセというのは、複数の鍵盤を押すと、複数の音が同時に出てくれるシンセサイザーです。

つまり和音が弾ける。

MONO/POLYは4つのVCO(Voltage-controlled oscillator/電圧制御発振器)が搭載されているので、4つの音までは同時に鳴らすことが出来ました。

ですから、左手で3つの音を押さえて、右手は単音でメロディを奏でる、ということも可能です。

しかし、やはり同時に出せる音が4つまでだと、なかなか曲を弾く際においては表現に限界が出てくることは否めません。

やっぱり、バンドを組んだ時などにおいては、メインで使うシンセサイザーではなく、どちらかというと面白い音色で効果的に楽曲を彩るために使うためのサブ機種として使うためのシンセだったのかもしれません。

インパクトある音色

このモノポリーには、面白い機能があって、これこそがモノポリー最大の特色なんでしょうけど、4つのVCOから発せられる別々の音色を、ボタンひとつでギュッ!と一つに凝縮、つまりモノフォニックにしてしまうことも可能で、異なる音色を一つに凝縮したことによって生まれる分厚い音色は、それはそれで、迫力とインパクトがありました。

なので、どちらかというと、緻密に作曲した曲を律儀に演奏するよりも、音色でドカンと一発・インパクト系の曲をこのMONO/POLYから引き出し、そこからアイデアをひねっていく作業のほうが多かったかもしれないですね。

上記《ヘレン1号》のように。

モノポリーでの音作りが慣れてくると、それはそれで良いのですが、その後に発売されたデジタルシンセサイザーのリバーブやエコーがかかった音が妙に新鮮に感じたりするもんです。

「おお、楽器じゃん!」って(笑)。

たとえば後年発売されて、弾かせてもらったコルグのPOLY-800や、ローランドのJUNOなんかは、わりとマトモな音色がプリセットされていて、ヤマハ音楽教室で習った曲を弾いてもマトモな音楽に聴こえる(笑)。

むしろ、このようなシンセを触った後にモノポリーを弾くと、出てくる音の世界の差にあまりの違いに愕然としてしまったものです。

楽器と発信機の違いとでもいうのかな?

しかし、それでも私はモノポリーをいじり倒せたことは、とても良い経験でしたし、個人的には大満足でした。

だって、アナログシンセの全盛期に、プロフェット5が160万円もした時代に、モノポリーは15万円弱の定価でしたから、当時YMOの坂本龍一が弾いていることで人気かつ憧れの機種の10分の1以下の値段で、ここまで面白い音を出せるということにおいては、非常に貴重なシンセだったのかもしれません。

重くてデカくて置き場所には困りましたけどね……。

その後、私はDX21のようなデジタルシンセで曲を作ったりもしていましたが、二十歳を過ぎるとベースを始めたこともあり、鍵盤熱が急速に冷めてしまいました。

なにしろベースを始めた年齢が遅いので、ベースを弾けるようになるための練習が精一杯で、ほとんど鍵盤に触ることなく数年が過ぎ去っていき、そして、ベース熱がひと段落した頃に購入したのがYAMAHAのV50でした。

この打ち込みも可能なキーボードを購入した理由は、ベースを練習するためのマイナスワン音源作りのためだったんですね、最初は。

基本的なリズムとコードを打ち込んでしまえば、あとはテンポを自由に変えられるので、マイナスワンテープよりも使える存在になると思ったんですね。

V50の音を鳴らしてみると、MONO/POLY育ちの私からしてみると、プリセットされている音色が、とにもかくにもゴージャスで、リヴァーブやディレイをかけると、かなりの色気のある音色がプリセットされているのですよ。

さらに、マリンバ(木琴)の音色が、かなりリアル。

打鍵したアタックの際に生ずる微妙なピッチの揺れというか、微細な音程のズレのようなものまでリアルに再現されていることには驚きましたね。

それに、私はJAPANが大好きでしたし、JAPANといえば、ラストアルバム『錻力の太鼓』に収録されていた《ゴースト》は、もろ木琴がアンサンブルの中核をなすナンバーでしたから、木の板がマレットに叩かれることによって発するアタック音には特別な思い入れがあったのですよ。

錻力の太鼓錻力の太鼓

ということで、そのリアルなマリンバの音に驚いた「驚き記念」ということで、いちょテキトーに録音してみましょうか!ということでV50の音色を何度かの多重録音で重ね録りをしてみたのが、この曲、《Rain Breton》なのです。

軟体生物のような四次元怪獣「ブルトン」が、秋か冬の冷たい雨に打たれて濡れて、哀しそうにヘタれているイメージがパッと浮かんだので、そのまま「雨」と「ブルトン」で「レインブルトン」。

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テニスの四大国際大会の一つである「ウインブルドン」と語呂が似ているのも良い感じかなぁ、と。

マリンバの基本パターンのみ打ち込みで、あとは、そのパターンにあわせて、色々な「艶っぽい」音色を即興で重ねています。

たぶん、完成するのに20分もかからなかったんじゃないかな。

これを録音したのが1993年頃だから、うひゃっ! もう23年も前の話なのね。

現在、就職活動をしている学生たちが生まれた頃に、私はV50が発するセクシーな倍音の成分に対して、ニヘラヒヘラと妖しい微笑みを浮かべながら、よーわからん曲を録音していたんだね。

記:2016/03/16

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